「仲田の新入イジメが始まったらしいっす」
酒井が 早速 昼休みで仕入れた話を
楽しそうに伝えてきた

「またかよ、仲田も懲りない奴だな」
「前の奴は 一週間だったですから
              こんどは何日もちますかねぇ…」
「あいつのイジメ、もう目を付けられてるぞ」
職員の間でも 仲田のイジメは薄々 
感づかれてるはずだと神崎はそうみている

「それにしても 最近の〝仕入れ〟…
              ポンコツが続きすぎますね〜」
酒井は 新入の補充の事を 仕入れと揶揄する

中年の志願兵が続いているのが実態だ

住まいも金もない人間が
寝る場所とタダ飯、そして医療措置を
受けるために 自ら志願して
刑務所に入ってくる者を そう呼ぶ

大概が 万引きや無銭飲食だが
常習の為 実刑となり服役することになる

神崎の同部屋の そのイジメの被害者も
その中のひとりだ

ファミレスで無銭飲食して
店員に 直接、警察を呼ばせたようだ
無駄がない…

働くことが嫌でブラブラしていた人間が
運悪く 此処に送り込まれたのだから
本人は計算が狂ったのだ

スピードが勝負の配食作業になると
モタモタするから大変だ

「あいつ ノロマだからなぁ〜」
酒井は同情半分で言いすてる

「しかし 娑婆じゃ万引きだけで一年、
    生活してたと自分の俊敏さをアピール
    してたけどな」

あまり興味がある話ではないが
刑務所は社会の縮図のようなもの
神崎も随分、いろいろな事が
把握できるようになってきている

しかし、この志願兵に この先
神崎自身が 振り回されることになるのを
この時はまだわかっていない

つづく