顧客は,「借用証書を返すまでは払わない」と言って,払ってくれませんでした。
当社としては,「領収証を渡すので納得して下さい」と言っていますが,顧客は聞き入れてくれません。
遅延損害金(違約金)を請求しようと思っています。
問題ありますか。
領収証を渡さない,という場合は違いますか。
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A 弁済と領収証交付→同時履行になる
弁済と借用書返還→同時履行にならない
【弁済と受取証書交付の同時履行(肯定)】
顧客に代金を請求しました。
顧客は,「領収証をくれるまでは払わない」と言って,払ってくれませんでした。
遅延損害金(違約金)を請求しようと思っています。
問題ありますか。
→「同時履行の抗弁」が成立します。遅延損害金の請求はできません。
一般的に,代金支払が遅滞した場合,遅延損害金の請求が可能ですし,また,契約の解除をすることができるようになります(民法415条~)。
しかし,領収証を発行しない,というケースではちょっと違ってきます。
「領収証の交付」と「代金の支払」は同時履行の関係になります(判例後掲)。
「領収証の交付がないことを理由とする代金支払の拒否(遅滞)」は「債務不履行」には当たりません(民法533条)。
「債務不履行に当たらない」→遅延損害金・解除などはできない
このような結果になります。
なお,当初より特約で領収証発行義務が排除されている場合は,当然ですが「同時履行の抗弁」は成立しません。
原則どおり,代金支払遅滞があれば,遅延損害金の請求は可能となります。
[民法]
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
[大審院民事判例集20巻3号163頁大審院第三民事部判決昭和15年(オ)第918号強制執行異議事件]
弁済者がその弁済に対し受取証書の交付を請求する所以のものは弁済の有無に付争ありたる場合に其の弁済事実の立証資料に供せんとするに在るものなるが故に弁済と引換に其の交付なくんば受取証書は其の効用を全うせざるべく従て請求あるに於いては受取証書は弁済と引換に之が交付を要するものと謂わざるべからず然らば弁済者が弁済を為さんとするに当り受取証書の交付を請求したるに拘らず弁済受領者が之を応諾せざるに於ては弁済者は弁済の為め現実に為したる提供物を保留し得るものと云うべく此の場合弁済者は提供物の交付せざることに付正当の理由あるものにして遅滞の責を負うことなきものとす
【弁済と債権証書の返還との同時履行(否定)】
顧客に貸金の返還を請求しました。
顧客は,「借用証書を返すまでは払わない」と言って,払ってくれませんでした。
当社としては,「領収証を渡すので納得して下さい」と言っていますが,顧客は聞き入れてくれません。
遅延損害金(違約金)を請求しようと思っています。
問題ありますか。
→「同時履行の抗弁」は成立しません。遅延損害金の請求はできます。
領収証の発行,と,借用証書の返還,は両方とも民法上のルールですが,「同時履行の抗弁となるかどうか」では違う結論です。
<同時履行の抗弁の成否>
・領収証の発行 と 弁済(支払)
→同時履行 の関係になる
・借用証書の返還 と 弁済(支払)
→同時履行 の関係にはならない
「借用証書の返還」と「弁済」は「同時」ではありません。
「先」と「後」という関係になります。
(※文献・裁判例後掲;裁判例は手形の買戻債務についてのものです。前提として,「受取証書の返還と弁済の同時履行」について触れられています)
<弁済 と 借用証書返還 の関係>
・弁済=先履行
・借用証書の返還=後履行
簡単に言い換えるとこうなります。
「まずは最初に弁済(返済や支払)をしなさい。その後,借用証書の返還を請求しましょう」
仮に,借用証書を紛失してしまったようなケースでは,現実的に借用証書の返還は不可能となります。
この場合でも,領収証の交付は同時履行です。
「領収証を受け取っているのだから,証拠としては十分ではないか」ということになるでしょう。
逆に言えば,「借用証書を紛失してしまった場合に永久に返済されない」ということを避けるように,「同時履行ではない」という解釈が取られているとも言えます。
[民法]
(債権証書の返還請求)
第四百八十七条 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
[能見善久・加藤新太郎編集『論点体系 判例民法4 債権総論』第一法規 426頁]
債務の弁済がなされる場合,弁済は債権証書の返還義務に対して先履行の関係に立つ。受取証書の交付と弁済が同時履行の関係に立つのとは異なる(486条参照)。
[横浜地方裁判所昭和56年(ワ)第1429号約束手形買戻請求事件昭和60年5月8日]
原告と被告間では、本件買戻特約に基づき、被告が原告から手形の割引を受けた場合において、被告が手形交換所から取引停止処分を受けたときなどには全手形について、また、当該手形の主債務者が期限に支払わなかつたときなどには、その者が主債務者となつている手形について、被告は原告に対し、当然に当該手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに弁済すること、また、本件損害金約定に基づき、被告が原告に対する債務を履行期に履行しなかつた場合には、支払うべき金額につき年一四・五パーセントの割合による損害金を支払う旨の特約が存することは当事者間に争いがないから、右事実によれば、いずれも神東興業の振出に係る本件手形(一)ないし(六)については、原告が本件手形(一)を呈示して支払を拒絶された昭和五一年六月三〇日に、本件手形(一)はもとより、その余の本件手形(二)ないし(六)についても被告にその買戻債務が発生すると同時にその弁済期が到来し、よつて、被告は同年七月一日から右買戻債務についてその履行遅滞に陥つたものであり、また、村越久商事の振出に係る本件手形(七)については、前記認定のとおり被告が手形交換所の取引停止処分を受けた同年七月六日に被告に右手形の買戻債務が発生すると同時にその弁済期が到来し、被告は同月七日から右買戻債務につき履行遅滞に陥つているものといわざるを得ない。
したがつて、被告は原告に対し、本件各手形の買戻債務を本旨にい従つて履行するためには、右各手形の額面金額相当額とこれに対する履行遅滞に陥つた日以降の年一四・五パーセントの割合による約定損害金を付加して支払うことが必要であり、その支払を受けた上で、原告は、被告に対し、右各手形を返還すれば足りるものというべきである。
そうすると、被告の原告に対する本件買戻債務の履行を原告の被告に対する右各手形の引渡しとは民法五三三条にいう同時履行の関係にはなく、民法四八七条の規定による債権証書の返還の場合と同様の関係にある(もつとも、手形の返還が遅滞するなどして損害が生じた場合にはその賠償責任が問題となりうる余地はある。)ものといわざるを得ず、被告の右主張は採用することができない。
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