ワープロ印刷,添え手,カーボン複写と遺言の有効性~自筆証書遺言~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

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大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 遺言を書こうと思っています。
  ワープロ印刷でも大丈夫ですか。一部だけなら。
  病気で手が動きにくい方に手を添えても大丈夫ですか。


誤解ありがち度 4(5段階)
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A ワープロ印刷は「一部だけ」でも基本的に無効となります。
  添え手,については,「補助的」ならOK
  遺言者本人の筆跡が分かる,がポイント。


【パソコン・印刷と有効性】
パソコンやワープロでキレイに印刷したものにサイン・押印をして遺言にしようと思います。
問題ありませんか。

→「自書」ではないので無効となります。

自筆証書遺言では「自書」が必要です。
明確なルールとされています(民法968条)。
これは,後日,「本当に本人(遺言者)が書いたのか」という確認の場面で,「検証の手がかりを残す」という重要な趣旨です。
自筆証書遺言では,筆跡からの検証・鑑定ができることは重要なキーなのです。
パソコン・ワープロによる作成・印字・印刷の文章は,「自書」ではない時点で,無効となります。

[民法]
(自筆証書遺言)
第九百六十八条  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2  自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

【目録のみの印刷と有効性】
自筆証書遺言を作成しようと思います。
不動産をきちんと記載したいのですが,結構多くの分量になります。
イチイチ手書きで書くのは大変なので,「不動産目録」だけ印刷を使いたいです。
大丈夫でしょうか。

→遺言全体が無効となる可能性が高いです。

形式的には「自書」には当たらないので「無効」と考えられます。
一方,「メインの部分ではなく,別紙の目録に過ぎない」と考えれば,「自書ではないくても良いのでは」とも思えます。
この点,完全に明確,という見解・結論は見当たりません。
東京高裁の裁判例(後掲)では,結論として「無効」としているものがあります。
しかし,裁判例の理論を分析すると,「タイプ印書」した者が遺言者本人ではない,ということを考慮しています。
これだけを考えると,「遺言者本人がワープロ操作・印刷作業を行う」という前提であれば,有効となる可能性もあるかもしれません。
ただし,裁判例における事案全体を考慮すると,「不動産目録も重要なのだから,『自書』が要求されるのは当然」という判断をしていると思われます。
結局,不動産目録だけでも「自書」ではない場合,全体が無効となる可能性が高い,と言えるでしょう。

[東京高等裁判所昭和58年(ネ)第291号、昭和58年(ネ)第292号所有権移転登記、同仮登記各抹消登記手続請求事件昭和59年3月22日]
遺言には厳格な要式性が要求され(民法九六○条)、自筆証書によつて遺言をしようとする者は、その全文、日付及び氏名を自書し、押印しなければならないものであるところ(同法九六八条一項)、弁論の全趣旨により前示請求原因六記載にかかる豊三の遺言書(以下「本件遺言書」という。)に該当するものと認められる乙第一号証には、その末尾にタイプ印書された不動産目録(第一ないし第三)が添付されているが、同遺言書は、右目録と対比することにより、はじめて控訴人孝雄に相続させるべき目的物を特定し得るものであることがその記載自体から明らかであるうえ、当審証人藤澤浪三郎の証言によれば、右目録は、司法書士である同人がその事務員に命じてタイプ印書させたものであることが認められる。してみると、タイプ印書された右不動産目録は、本件遺言書中の最も重要な部分を構成し、しかも、それは遺言者自身がタイプ印書したものでもないのであるから、右遺言書は全文の自書を要求する民法九六八条一項の要件を充足しないことが明らかであり、仮に同遺言書が遺言者である豊三の意思に基づき作成され、かつ、その記載が全体として同人の真意を表現するものであるとしても、そのことのゆえに右全文自書の要件が充足されていると解するのはとうてい許されないものというべきである。したがつて、本件遺言書は自筆証書遺言としての効力を生ずるに由ないものといわざるを得ない。

【カーボン複写と有効性】
自筆証書遺言を作成しようと思います。
控えを取っておきたいので,カーボン用紙を使って複写しようと思います。
これなら,仮に1部が紛失しても,写しの方が遺言として使えると思っています。
問題ありますか。

→カーボン複写による遺言も判例上有効とされています。

まさに,ペンで記載した「オリジナル」が紛失し,カーボン複写の方だけが残っていた,というケースで,最高裁が有効性を判断したケースがあります。
結論としては,「自書」に該当する=有効,となりました。
根本的に考えると,「自書」が要求されている趣旨は,「後日,本人の筆跡との照合が可能」というものです。
この点,筆跡まで再現されているカーボン複写については,特に問題ない,という解釈がされているのです。
もちろん,「自書」以外の要件は必要です。
つまり,カーボン複写の用紙にも,「押印」がされている必要があります。
さすがに「押印」がカーボン複写,ということになると無効となるでしょう。

[最高裁判所第3小法廷平成4年(オ)第818号遺言無効確認請求事件平成5年10月19日]
本件遺言書は、景雄が遺言の全文、日付及び氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載したものであるというのであるが、カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから、本件遺言書は、民法九六八条一項の自書の要件に欠けるところはない。

【添え手と有効性】
自筆証書遺言を作ろうと思います。
しかし,私は病気で手が震えて,しっかりとした字が書けません。
家族に手を添えてもらって記載しようと思います。
問題ありますか。

→添え手が「補助的なもの」に過ぎないならば「有効」となりましょう。

確かに,他の方に手を添えてもらって記載した,という状態では「自書」と言えないようにも思えます。
かと言って,他の方が一瞬でもサポートしたら「一律無効」というのも杓子定規過ぎます。
まさに,このようなケースで最高裁が有効性を判断した判例があります。
最高裁も悩んだ末,一定の要件が満たされれば「添え手によるサポート」があっても「自書」として認めることにしました。

<添え手によるサポートがあっても遺言が有効となる要件>
(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有していた
(2)他人の添え手が,単に筆記を容易にするための支えを借りたにとどまる
 ・始筆,改行,字の間配り,行間を整える
  →遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまる
 ・遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされていた
  →筆記を容易にするための「支え」を借りただけ
(3)添え手をした者の意思が介入した痕跡がない
  →遺言者の筆跡を変える程度には至っていない

[最高裁判所第1小法廷昭和58年(オ)第733号遺言不存在確認請求事件昭和62年10月8日]
(略)病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2)他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3)添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。

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