日常家事債務~どこまでが必要,どこからが贅沢?~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 妻が勝手に買った商品について,私(夫)が払う義務があるのでしょうか。

誤解ありがち度 4(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

A 「日常家事」に関する契約については夫婦連帯責任です。
  「日常家事」かどうかは,対象物・価格,経済状態から「必要」と言えるかどうかで決まります。


【日常家事債務】
妻が勝手に買った品物の代金を私(夫)が払う義務があるのでしょうか。

→売買対象物が「日常家事」に関するものである場合,夫婦に連帯責任があります。

原則として,契約から生じた債務は,その契約当事者が負います。
契約にタッチしていない者には効果は及びません。
ですから,夫婦だからと言って,妻のした契約による債務を,夫が当然に負担することにはなりません。
「蒸発した夫が残した多額の借金を妻が苦労して払う」なんていうのは,理論上その必要はないのです。
しかし,日常生活に関する契約によって生じた債務の場合は,事情が違います。
契約の相手も,妻のみと契約した場合であっても,「家族の日常生活に必要なものなのだから,代金は家族が協力して払ってくれるのだろう」と期待しているはずです。
そこで,日常生活に関する契約によって生じた債務(これを「日常家事債務」と言います)は,夫婦の一方が契約した場合であっても,夫婦双方が連帯して義務を負うこととされています(民法761条)。

[民法]
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第七百六十一条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

【日常家事債務が問題となる場面】
普通,夫婦は財布が一緒です。「夫婦で連帯」とか意識しません。
どのような場面で日常家事債務が問題になるのでしょうか。

→離婚後や破産を行った場合など,表面化します。

確かに,一般には,夫婦では経済的に一体となっていることが多いです(違う設定をしている方もいらっしゃいますが)。
そうすると,実際には,責任を負っているのが「夫婦連帯」でも「夫(妻)だけ」でも関係ないと言えましょう。
逆に,夫婦間の日常家事債務が問題になるのは,次のような場合が典型です。
<日常家事債務が問題となる場面>
・夫婦仲が悪化して,別居中
・離婚後
・夫婦の一方が破産した(民事再生なども含む)

【日常家事債務の範囲】
日常家事債務とはどのようなものが該当するのでしょうか。

→日常生活を送るために通常必要であると考えられる契約が該当します。

日常家事債務の解釈は次のようなものがあります(裁判例後掲)。
<日常家事債務の範囲>
・夫婦と未成熟子からなる共同生活に通常必要とされる一切の事項(注釈民法9 P105)
・実質的に夫婦共同生活の維持に必要かどうかで判断すべき(内田民法 P42)

<まとめ>
その夫婦の住む地域,生活水準からして,日常生活を送るために通常必要であると考えられる契約

[最高裁判所第1小法廷昭和43年(オ)第971号土地建物所有権移転登記抹消登記手続請求事件昭和44年12月18日]

民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。

【日常家事債務の判断要素】
夫婦の生活に必要な契約かどうかは,どのような事情から考えるのでしょうか。

→契約の目的,金額,経済状況,地域性などから考えます。

ある支出(契約)が,日常生活において必要かどうか,という視点で考えます。
同じ支出でも,個々の夫婦の経済状態によってもその必要性は違ってくるでしょう。
また,地域性によっても違いは出てくるでしょう。
次のような要素を総合的に考慮することになります。

<日常家事債務の判断要素>
・支出額
・契約(行為)の目的
・夫婦の社会的地位,職業,資産,収入
・生活する地域の慣習
・契約(行為)の種類,性質
・夫婦の内部的事情

【日常家事債務に関する裁判例(具体例)】
具体的に,日常家事債務に該当する例やしない例はどのようなものがありますか。

→裁判例などにより,判断されている項目がいくつもあります。

<日常家事債務として肯定>
・夫婦が暮らす借家の家賃
・夫婦が暮らす家の水道光熱費,テレビ受信料(裁判例後掲)
・生活必需品の購入費
・子供の教育,養育費
・家族の医療費
・レジャー費,被服費,化粧品代(収入に比較して相応な程度)

<日常家事債務として否定>
・ギャンブルによる借金
・事業失敗等の仕事上の借金
・収入に比較して不相応な高価品の購入(太陽熱温水器;裁判例後掲)
・交通事故等の損害賠償

(肯定例(否定した1審判決を破棄))
[札幌高等裁判所平成22年(ネ)第188号放送受信料請求控訴事件平成22年11月5日]

一般的な家庭において,テレビを家庭内に設置してテレビ番組を視聴することは,日常生活に必要な情報を入手する手段又は相当な範囲内の娯楽であり,また,これに伴って発生する受信料の支払も,日常家事に通常随伴する支出行為と認識され,その金額も夫婦の一方がその判断で決しても家計を直ちに圧迫するようなものではなかったことが認められる。
 以上を前提に(略)すれば,実際にその家庭が控訴人の放送番組をどれくらい視聴していたかどうかに関係なく,平成15年当時,受信料支払義務を伴う放送受信契約を控訴人と締結することは,一般的,客観的に見て,夫婦共同生活を営む上で通常必要な法律行為であったと解するのが相当である。
 (略)
 以上によれば,Aによる本件契約の締結は,民法761条の日常家事行為に含まれ,Aは,被控訴人を代理する法定代理権を有していたというべきである。

※同様の裁判例
[東京高等裁判所平成21年(ネ)第4582号、平成22年(ネ)第904号各受信料請求控訴,附帯控訴事件平成22年6月29]
[千葉地方裁判所平成22年(ワ)第2124号放送受信料請求事件平成22年10月28日]


(否定例)
[門司簡易裁判所昭和58年(ハ)第84号立替金請求事件昭和61年3月28日]

太陽熱温水器は、通常、家族の日常生活に使用されるものではあるが、生活必需品とまではいかず、また一般に普及しているとも言い難いところである。(略)
 被告本人の供述によると、(略)温水器の必要性は低かつたと認めざるを得ない。(略)要するに、代金の負担さえ重くなければ、有るに越したことはないという程度に過ぎないものであつたと推認される。
 次に、被告の家計の状況を見るに、被告本人の供述によると、昭和五七年一〇月頃は、被告の家族は被告夫婦と妻の両親の四人暮しであつたこと、被告の収入は一か月の手取りが七、八万円で、それは全部妻に渡していたこと、妻は小規模の食堂を経営していたことなどが認められるが、食堂の利益がどの程度であつたのかは判らない。それにまた、被告本人の供述によると、被告は温水器の設置に反対していたのを、妻が敢えて設置したことが認められる。
 右のような被告家族の生活状況の下で、立替手数料も入れて合計四一万五七一〇円の債務を負担するのは、極めて重い負担というべきである。前認定の必要性の低さとこの債務負担の重さを考えると、その頃の被告家族にとつて、敢えて本件温水器を設置する理由はなかつたと思われる。従つて、本件温水器の購入は、民法七六一条の日常家事に関する法律行為には該当しない。

<<告知>>
みずほ中央リーガルサポート会員募集中
法律に関する相談(質問)を受け付けます。
1週間で1問まで。
メルマガ(まぐまぐ)システムを利用しています。
詳しくは→こちら
無料お試し版は→こちら

<みずほ中央法律事務所HPリンク>
PCのホームページ
モバイルのホームページ
特集;高次脳機能障害

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ
↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

夫婦間のトラブルに関するすべてのQ&Aはこちら
震災特例法に基づく被災者(会社)の負担軽減策。税金の還付請求など。by国税庁
弁護士による離婚問題無料相談
弁護士による離婚問題無料相談(モバイル)
個別的ご相談,お問い合わせは当事務所にご連絡下さい。
お問い合わせ・予約はこちら
↓お問い合わせ電話番号(土日含めて朝9時~夜10時受付)
0120-96-1040
03-5368-6030