養育費の合意・相殺の有効性~金属の弾性の逆~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

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大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q 離婚の際,養育費について離婚協議書に書きました。
  夫(相手方)の言い分に負けた形で低い金額なのです。
  書いた以上はこのとおりになってしまうのでしょうか。
  元々離婚したのは私(妻)の浮気です。
  夫は慰謝料と相殺するとも言っています。
  どうなるのでしょうか。

養育費の合意・相殺の有効性ですね。

誤解ありがち度 4(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

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A まとめはこうです↓
 適正な額→有効
 極端に低い額→無効の可能性あり
 ゼロ→原則無効


【「養育費の請求はしない」の有効性】

→「請求しない」という約束は無効です。

養育費の性質は,子供が親から「扶養を受ける権利」です。
(正確には,扶養請求権と養育費は微妙に違いますが,ここでは同視して考えても問題ありません)
これは「処分」できないとされています(民法881条)。
理由は,「一身専属権」と言って,身分に基づく重要な権利だからです。
次のとおり,「処分」の1つである「放棄」も否定されるのです(大阪高等裁判所昭和54年6月18日;後掲)。

<処分の具体例>
・債権譲渡
・放棄
・相続
・差押
・相殺

ただし,仮に親権者側だけで十分扶養できるだけの経済状態であれば,「扶養の分担の合意」として有効と考えられることもあります(民法878条)。

【民法881条】
扶養を受ける権利は、処分することができない。
【民法878条】
扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。

【合意した養育費が適正額より低かった場合の有効性】
→極端に低い場合は無効となる可能性があります。

「養育費の合意」自体は尊重されます。
しかし,極端に低い金額だった場合は,「子供の扶養請求権を不当に『処分』した」ということになり,無効となることもあります(民法881条)。
「早く離婚を成立したかったから夫の言いなりになって低い養育費で合意した」という主張もよくあります。
どのような状況で合意したのか,脅されるなどの事情があったかどうか,も有効性に関係します。
これに関連する裁判例があります(仙台高等裁判所昭和56年8月24日;後掲)。
やや古いケースですが,この件では,「養育費(養育料)」と「(子供の持つ)扶養料」は別だという理論を採用しています。既払いの養育費の控除も否定している部分については,一般化できないと思われます。

【養育費もらう側にとって 「やや低い金額(有効)」よりも「極端に低い金額・ゼロ(無効)」が有利?】
→結果的にそのような法則になりそうです。
 しかし,意図的に極端な内容の合意をすることには注意が必要です。

養育費の合意が無効であれば,事後的に,調停・審判によって「適正な額」を決めてもらえることになります。
「中途半端に低い金額の合意」よりも有利のように感じられます。

ここで 金属 と比較します。
【養育費と金属弾性】
     多少変える(減額や変形)  すごく変える(減額や変形)
養育費   変わる(有効)      変わらない(無効→元に戻る)
金属  変わらない(戻る;弾性変形) 変わる(戻らない;塑性変形)
                  ↑境界=弾性限界

話し,戻ります。


実際に,養育費の合意について有効・無効が判断される際には「合意に至った経緯・意図」も関係します。
敢えて無効となることを意図して,極端に低い金額やゼロという合意をした場合は,「有効」となる可能性もあります。
「法の悪用」として権利濫用に該当する可能性があるからです。
実際には,「合意に至った意図」などは厳密に再現できるわけではないので,「極端な金額やゼロでの合意」イコール「無効」となる可能性は高いでしょう。

【養育費の相殺】
例えば,元妻が慰謝料を払っていない場合,慰謝料と養育費を相殺したいですね!

→相殺できません。

形式的には,慰謝料と養育費を,相互に払いあう関係,になっています。
通常であれば,相殺ができる状態です。
しかし,養育費(扶養請求権)については,相殺が禁止になっています。
重要な一身専属権として差押が禁止されています(民法881条)。
差押禁止債権については,(債務者側=養育費を支払う側からの)相殺が禁止されています(民法510条)。

【民法510条】
債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

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【大阪高等裁判所昭和52年(ラ)第545号子の監護に関する処分審判に対する即時抗告申立事件昭和54年6月18日(抜粋)】
 抗告人及び相手方の当審における各陳述によると、相手方は、昭和五一年二、三月ころ、それまで抗告人が手許で養育していた事件本人の長女紀子を抗告人から引取り、すでに相手方において養育していた事件本人の長男一弘ともども以後養育することになつたところ、紀子を引取る際、抗告人から養育料や生活費ということで三〇万円位を受領したこと、その折相手方は抗告人に対し、もう養育費などは請求しないと言明したこと、相手方がこのような言明をしたのは紀子を引取る際に悶着があり、それ以上事柄をこじらせないで解決するのに最上と考えたからであることが認められる。なるほど右認定の事実によれば、子の養育費の負担につき、養育義務者である父母の間で、母から父に子の養育費を請求しないとの合意が成立していると認められるのであるが、しかしながら右合意は養育義務者間でのみの合意であつて、これによつて子に対する扶養の義務を免れさせる効果をもつものではない。すなわち右合意により父たる抗告人の事件本人未成年者両名に対する扶養義務が消滅するわけではなく、母である相手方が両名を扶養する能力を欠くときは、父である抗告人から未成年者両名に対する扶養義務が果されなければならない。もとより右合意の存在は本審判における扶養料の額を定めるについて有力な斟酌事由となるにとどまるというべきである。本件においてみるならば、抗告人と相手方間で授受された右養育料の金額、その後における相手方及び未成年者両名の生活環境、相手方の収入等に照らし、右合意が存在するからといつて、原審判認定の扶養料の額を不相当ということはできない。

【仙台高等裁判所昭和56年(ラ)第46号扶養料請求申立審判に対する即時抗告申立事件昭和56年8月24日(抜粋)】
 然し、原審判も述べるとおり、前記和解は抗告人と相手方母との間に成立したもので、抗告人と相手方との間に直接の権利義務を生じせしめたものではないから、右和解が養育料折半の趣旨で成立したとしても相手方に対しては何らの拘束力を有せず、単に扶養料算定の際しんしやくされるべき一つの事由となるに過ぎないし、また抗告人が相手方母に対し前記和解に基づく養育料を支払つたからといつて当然に本件扶養審判において差引計算をしなければならぬ筋合のものでもない。
四 その他記録を精査するも原審判にはこれを取消変更すべき違法、不当の事由は存在しない(なお別紙抗告理由1に記載されている点は抗告人においてもこれを問題とすることは本意でないというのであるから、当裁判所も右の点については判断を示さない)。