Q 夫婦共有となっている自宅(土地建物)について,夫が「共有物分割訴訟」を提起してきました。
第三者に売却(競売)することを要求しています。
家がないと困ります。
何とかなりませんでしょうか。
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A 通常であれば,買い取る資金があれば,妻が夫持分を買い取ることができる可能性があります。
買い取る資金がない場合も,状況によっては,夫の請求を棄却に持っていくことができるかもしれません。
前提知識。
共有となっているものについては,「共有物分割請求」という制度があり,この制度によって,単独所有になります。
具体的には,そのもの自体を2つに分ける(現物分割),とか,競売にかけて第三者に売却して代金を分ける,というような結論になります。
今回の土地・建物については,うまく分けられれば良いですが,分けられない可能性が高いと思います。
この点,建物が1個だと現物分割は不可能ぽいのですが,例外もあります。
広い土地の隅っこに建っている場合です。
「建物付きエリア」と「更地エリア」という分け方をすることができます。
ただ,大半のケースでは建蔽率の問題も含めて考えると,建物付きの場合はうまく2つに分ける線が引けないことが多いです。
で,当事者の片方が対象不動産をどうしても手放したくない場合は,「強制買取」ができる可能性もあります。
これは,業界的には「全面的価額賠償」とか言います。
最高裁の判例で認められた「ウルトラC」です。
1度最高裁で出た後は,「普通の小技」としてあちこちで活躍しています。
このワザにも条件がいくつかあります。
その1つが,「買い取れるだけの資金があること」です。
ということで,買取資金が用意できる状態にないと折角のワザも使えません。
本題に戻ります。
夫からの共有物分割請求に対し,マイホームが第三者に渡るのを防ぐためには
資金を用意して全面的価額賠償(強制買取)を要求する
ということになります。
では,資金がない場合はどうでしょうか。
普通であれば,競売で第三者に渡るのを防げない,という結論です。
しかし,防ぎきった例があります。
その裁判例(末尾記載)を元に説明します。
後で説明しますが,「権利濫用」を使って棄却にしたという珍しいケースです。
妻は,「ひどい提訴じゃないか!」とアピールしました。
当然夫は反論します。
事情をピックアップします。
妻「提訴するなんてひどい!!」
・確かに夫婦別居しているし,離婚の調停もした(不調で終わっている)。
・妻は60歳オーバーで今後の収入はとても不安。
・妻と一緒に住んでいる子は精神疾患がある。
・夫は妻・子に生活費(婚姻費用分担金)の支払をわずか(月額3万円)しかしていない。
・仮に第三者に売却(競売)した場合に,まとまった金銭が入ってくればまだ救いだが,抵当権が付いているので,手元に来る金額は結構少なくなると予想される。
夫「いやいや,こんな事情があるから仕方なく提訴したんだよ。いやがらせじゃないよ」
・癌にかかっているので治療費がかかる
・収入が下がっている
・借金が返しにくくなる
・不動産を売却してその代金で返済しなくてはならない
これらの主張を聞いて,最後に裁判所の判断。
結論=妻の勝ち。
理由
このまま競売→売却→妻・子が退去
となると,妻・子は収入もなくなる。そもそも夫の別居が,妻子を「置き去りにした」ようなもんだ。
仮に別居が続くなら,離婚の訴訟でも協議でもすることになるはず。
離婚の訴訟(協議)の中で,「財産分与」として夫婦のどちらにどのような形で残すのかを考えるべき。
夫の請求はトータルでひどいので「権利の濫用」(民法1条3項)として根本的に認められない!
と,以上まとめたとおり,「多くの細かい事情」をピックアップした結論として請求棄却とされています。
細かい事情によるのです。
いずれにしても,「これはひどい請求だ」という事情がある場合は,「闘う」意義がありましょう。
あと,理由で出てきたトピック,財産分与(離婚時の財産処理)と共有物分割請求のバッティング,というのはマイナーですが,おもしろいテーマです。
似ているトピックで「遺産分割と共有物分割のバッティング」というのもあります。
またこれは別の話し。
さらに,「権利の濫用による棄却判決」と「離婚請求に対する棄却判決」というおもしろトピックも関連しますが,また別の話し。
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<裁判例(抜粋)平成17年6月9日大阪高等裁判所>
四 権利の濫用の主張の当否(争点(3))について
(1) 民法二五六条の規定する共有物分割請求権は、各共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能にするものであり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、十分尊重に値する財産上の権利である(最高裁判所大法廷昭和六二年四月二二日判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)。
しかし、各共有者の分割の自由を貫徹させることが当該共有関係の目的、性質等に照らして著しく不合理であり、分割請求権の行使が権利の濫用に当たると認めるべき場合があることはいうまでもない。
(2) 以上の観点に立って本件について、被控訴人の分割請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて検討する。
控訴人が指摘するとおり、本件不動産は、被控訴人が控訴人との婚姻後に取得した夫婦の実質的共有財産であり、しかも現実に自宅として夫婦及びその間の子らが居住してきた住宅であり、現状においては被控訴人が別居しているとはいえ、控訴人及び長女春子が現に居住し続けているものであるから、本来は、離婚の際の財産分与手続にその処理が委ねられるべきであり、仮に、同手続に委ねられた場合には、他の実質的共有財産と併せてその帰趨が決せられることになり、前記認定に係る、資産状況及び控訴人の現状からすると、本件不動産については、控訴人が単独で取得することになる可能性も高いと考えられるが、これを共有物分割手続で処理する限りは、そのような選択の余地はなく、被控訴人が共有物分割請求という形式を選択すること自体、控訴人による本件不動産の単独取得の可能性を奪うことになる。
そして、前記認定のとおり、被控訴人は、離婚調停の申立て自体は経由しているものの、いまだ離婚訴訟の提起すらしておらず、現に夫婦関係が継続しているのであるから、本来、被控訴人には、同居・協力・扶助の義務(民法七五二条)があり、その一環として、控訴人及び病気の長女春子の居所を確保することも被控訴人の義務に属するものというべきである。ところが、被控訴人は、病気のために収入が減少傾向にあるとはいうものの、依然として相当額の収入を得ているにもかかわらず、これらの義務を一方的に放棄して、控訴人や精神疾患に罹患した長女の春子をいわば置き去りにするようにして別居した上、これまで婚姻費用の分担すらほとんど行わず、婚姻費用分担の調停成立後も平成一六年九月以降は、月額わずか三万円という少額しか支払わないなど、控訴人を苦境に陥れており、その結果、控訴人は、経済的に困窮した状況で、しかも自らも体調が不調であるにもかかわらず、一人で春子の看護に当たることを余儀なくされている。その上、本件の分割請求が認められ、本件不動産が競売に付されると、控訴人や春子は、本件不動産からの退去を余儀なくされ、春子の病状を悪化させる可能性があるほか、本件不動産には前記認定のように抵当権が設定されているため、分割時にその清算をすることになり、控訴人と春子の住居を確保した上で、二人の生計を維持できるほどの分割金が得られるわけでもないし、控訴人は、既に満六〇歳を過ぎた女性であり、しかも原田病や神経症のため通院治療を受けていて、今後、稼働して満足な収入を得ることは困難であるから、経済的にも控訴人は一層苦境に陥ることになる。
これに対し、被控訴人は、現在、進行した前立腺癌に罹患し、その治療などのため、収入が減少傾向にあり、借入金の返済が徐々に困難になっていることから、余命を考慮して、負債を整理するため、本件不動産の分割請求をしているものである旨主張している。
被控訴人の病状からして、上記のような考えを持つこと自体は理解できないでもないが、前記認定事実によっても、その主張自体からも、現時点で、金融機関から競売の申立てを受けているわけでもなく、直ちに本件不動産を処分しなければならないような経済状態にあるとは認め難いし、仮に、そのような必要があるとしても、事務所不動産を先に売却して、事務所自体は他から賃借することも考えられるのであって、どうしても負債整理のために本件不動産を早期に売却しなければならない理由も認められない。また、上記のような困難な状況にある妻である控訴人や子供らの強い反対を押し切り、控訴人らを苦境に陥れてまで負債整理を行わなければならない必然性も見出し難い。
(3) 以上の諸事情を総合勘案すると、被控訴人の分割の自由を貫徹させることは、本件不動産の共有関係の目的、性質等に照らして著しく不合理であり、分割の必要性と分割の結果もたらされる状況との対比からしても、被控訴人の本件共有物分割請求権の行使は、権利の濫用に当たるものというべきである。