3公演、集中して、心を澄まして観させて頂きました

初日
凄かったです
クロードが居ました
表現しようがないのですが、確かに居ました
「愛してたんだ…」と言った途端、フワァ…と現れて、
鳥肌が立ちました
居たように感じたのではなく、居ました
時折、イーヴを背中から抱きしめたり、
髪に頬ずりしたりしているのが観えました
ええ、本当居たら怖い話ですが、居ました
何度か、彼がクロードにもたれかかるのも観ていました
そこまでイーヴを追い込んで引き出したのは刑事の力量でしたが
クロードを下ろしたのはイーヴでした

最初、彼はとても不機嫌で、刑事の問い掛けに答えるのも
観客がそれを聞いているのも
あの空間の全ての状況に苛立っているようでした
言葉が通じない
内容が伝わらない
こんなにありのままを話しているのに
その状況を、息を詰めて見守る聴衆(観客)が、
うっとおしいといったように
イラつく!イラつく!!イラつく!!!…という響きが、
何度も打ち寄せてきました
どうせ言っても分かりゃしない、
でも聞いてくるから答えてるんじゃないか
なのにどうして理解しない、
理解しようとしない!…というような
そんな彼に対し、刑事は怒鳴り、つつき回し、
嘲笑い、小馬鹿にし、宥めすかすふりをし、
何とかして「欲しい供述」を喋らせようとする
真実の追求ではない、
何とかして「まともな逮捕理由」をもぎ取るために
だからどんなに遣り合っても、決してかみ合わない
何もかもが違う、どう言ったって分からない…

彼の内側で
心が求めたあのヒトと、身体が求めたあのヒトが
縦横の軸で交わったほんの一点が永遠で、
それ以外が纏わりつく現実で
その一点が本当の永遠になって、
決して失われないようにするには
それしかなかった
「愛していたから殺した」なんて言葉じゃ伝わらない
その、永遠の感覚を知らなければ

感覚の求めた永遠の為に起こした事
なのに、通報の最たる理由が「…腐っちゃう」
光輝いて美しかったあのヒトは、
永遠の感覚から離れた肉の塊のようになってしまった
シーソーの両極を行ったり来たりする彼の揺れを
鳥肌立てて震えて泣きながら、身体中を耳にして聴いていました
この役者に出逢えた事に感謝、本当に有難いと思いながら

素晴らしい初日でした
その晩はあの空間の響きが纏わりつくように離れなくて
浅い眠り、何度も目覚めて、息苦しかったです
そして凌くんが現実に戻るには、禊するように彼を落とさないと
なかなか此方側に戻れないのでは…?と心配になりました
でも、嵌り役です
怖い役者です
翌朝は、起きてからずっと溜息ばかり
今日はマチソワするのに、怖いほどの緊張感
あの空間で、またあれを目撃するのかと思うと
凄く凄く観たいのが溢れすぎて、怖かったです
落ち着かない自分のメンタルが情けなくなりました
何か食べなきゃと思っても、食欲がない
クロードのキッチンの光景が
(実際は観ちゃいないのだけど)
脳裏に焼き付いている
(本当に、自分、だいぶ危ないなと思いました)
結局何も食べられず、ロビーで震えながら開演を待っていました

5日のマチネ
中段あたりで全体が視線に収まる席でした
刑事の第一声から
「あれ…?」と首を傾げました
何かが違っていました
初日の追い詰め方が執拗だったので、拍子抜け、というか…
集中が途切れてしまうのか、どうしても繋がらなくて
何度も目標値まで辿り着こうとするのに届かない
…刑事が、伊達さんに戻ってしまうのが止められない
いったん彼が中座して、
戻るまでの間に切り替えようとしていたのも感じました
彼が戻り、独白に至る間も繋げようとされていらっしゃった
でも、「違う」「違う」という焦りが滲み出ていらっしゃる
それが、速記者や警護官にも伝わったのか、
全体が切れ切れになっているようでした
良い悪いではなく、そうゆう空間になっていました
初日とは違う道筋、違うエネルギー、違うスピード、違う響き…
独白が始まっても「なんか違う」「なんか違う」と思いながらなのか…
クロードが現れたのは本当に終盤でした
でも、「凄い、ちゃんと下りてきた…」と、またもや鳥肌
初日とは、行きつくところが違うのだと、終演後に思いました

きっとお稽古でも、通す度に違う道筋を通り、
クロードが現れる時点も毎回違ったのでしょう
最終のお稽古が物凄かったと公式が呟いておられましたが、
それは、その時通った道筋で至った処なのでしょう
千穐楽は何処をどう通るのか、行きたい処まで行けるのか
マチソワ間、アイスコーヒーをすすりながらぼんやりと思っていました

千穐楽は割と前方のセンターブロックでした
リーディングで、身体をどう使うのかも併せて観ようと思って臨みました
開演してから刑事の第一声まで、物凄く張り詰めて、
息苦しくて、静かに深呼吸を繰り返しました
リーディングが始まると、マチネとは全く違った道を軽快に滑り出していました
彼の身体の使い方で印象に残ったのが、台本の持ち方、手の動きです
刑事とのイラつくやり取りの前半は、背表紙に人差し指をひっかけ
脇腹よりやや上に、身体から離した状態で左手に収め
右手は髪をかき上げまくっていました
中座させられるまで同じように持ち続け、
生意気で譲らない男っぽさを押し出しているようでした
中座から戻り、刑事とのやり取りの中、
奇妙なタイミングでキレて靴を脱ぎ散らかした時
驚いて息をのみました
「我慢ならない」といったような響きでした
それは刑事に対してなのか、その状況に対してなのか、
乱暴な行動なのに危うくて
台本の持ち方も、
広げた左手に乗せて右手で端を掴んだり殴るようにめくったり
身体に引き寄せたり離したり、
彼の心情全部が、身体の全てから溢れていました
もしかしたら、アメリカ人の部屋を出るとき、
テーブルの上にお金を戻した時に
それを振り返って話した事で
「あのヒトを愛していた」のを再認識したのでは?とも感じました

楽の独白で、それまでと違ったのは
彼がいかにあのヒトを愛していたか、について語っているのに
どれだけあのヒトが彼を愛していたか、に変換されて届いてきた事です
美しくて煌びやかな絶頂の快感と、薄汚れて面倒でうんざりする現実
どちらも纏わりついて絡めとられて沼のように沈み込ませられる
マイクから離れ、テーブルを叩きつけて叫んだのも、とても驚きました

全てが一瞬に起こって、そこからが、
彼が、「愛」を確認する、というか、振り返る、というか
自分の中に落とし込む時間だったのではないでしょうか
自分の中に落とし込むと、どんどん現実になる
現実の最たるものは、「名前」
「僕」が「イーヴ」で「あのヒト」が「クロード」だと
口にしてしまったら、
認めてしまったら
切り離されていた「至高の一瞬が永遠になった」事と
あのヒトだった肉の塊が腐ってしまう現実に「気づいている」事が
結びついてしまうから…
台本を持つ手は、大事なものを包み込むように、
覆うように、壊さないように、…抱え込むように
ぴったりと身体に引き寄せ、
何度か何度が胸に当てるようにしていらっしゃいました
「彼の、あのヒトへの深い愛」と、
文字にすると凄く薄っぺらく感じてしまうのですが
「愛していたんだ…」と口にした彼自身も、
その愛がどれだけ深く、激しく、静かで、熱く、儚いか
自覚出来てはいなかったのだと思います
最後に崩れ落ちるように蹲る彼を
包むように抱くクロードが観えました
クロードもまた、自分がどれだけイーヴを愛していたか、
どれだけ愛し合えていたのか
感じていても、理解していなかったのではないでしょうか
それを測るのは当人たちじゃない、
目撃者である刑事、速記者、警護官、…そして、観客だから
うつむいた彼の首筋は、放っておけないくらい孤独で、
だから、クロードはそこにキスをするのだろううな、と

自分はまだ、あの空間で受けたものから戻れていません
演じた凌くんは、もっと、
彼を切り離すのが大変だろうと思います
禊するように、落とさないと、
捕らわれていた方が楽だとすら感じてしまうので

やはり、全然纏まりません…

凄かった、
素晴らしかった
汗も涙も唾も鼻水も飛ばし放題でしたが
……本当に、美しかった

来年もぜひ、凌くんに「彼」を演じて頂きたい
コントロール出来るようになるのか
凌くんにしては珍しい憑依が、また起きるのか
嵌り役だ
怖い役者だ
もう一度、それを確信したいから


役者・松田凌に感謝します