■ 1年で53億円ものキャッシュが減少したワタミ

 

ワタミの最新決算分析の前編では、損益計算書から18億円の赤字の原因を特定し、前期の赤字は一時的なものであることを浮き彫りにしてきました。

 

今回は後編として、バランスシートやキャッシュフロー計算書から、ワタミの経営分析を行っていきたいと思います。

 

それでは、まずバランスシートの現金残高からチェックしていくことにしましょう。

 

 

ワタミの2017年3月末現在の現金残高ですが、138億円とこの1年間で前年の191億円から53億円も減少しています。

 

この138億円という現金残高は、日割りで計算するとおよそ50日分の売り上げに相当する水準になります。

 

この水準自体の妥当性はワタミの数字だけでは判断しにくいので、同業他社の鳥貴族と比較してみましょう。

 

鳥貴族の直近の決算書を見ると、売上高245億円に対して現金残高は37億円とおよそ55日分の売り上げに相当する水準です。

 

このように両社の現金残高の水準を比較してみると、決してワタミが著しく低い水準ではないことがわかるでしょう。

 

■ 巨額の現金の減少に伴ってワタミに起こった劇的な変化とは?

 

ただ、やはり1年間で53億円もの現金が減少することは、何かしらの原因があると思われます。

 

やはり、赤字が原因なのでしょうか?

 

その原因を探るべく、続いてはキャッシュフロー計算書をチェックしてみましょう。(文末参照)

 

ワタミの2017年3月期のキャッシュフロー計算書は、次のような数字になっています。

 

営業キャッシュフロー +30億円
投資キャッシュフロー -18億円(定期預金の増加分-50億円を除く)
財務キャッシュフロー -65億円(内訳:債務返済-61億円、配当金支払-4億円)
計)-53億円

 

つまり、営業で生み出した30億円のキャッシュのうち、18億円を設備投資などに使った後、余った12億円と手持ちのキャッシュ53億円を合わせた65億円を、61億円の債務の返済と4億円の配当に充てたということになります。

 

特にこの60億円を超える債務の返済はワタミの財務に劇的な変化をもたらしたことが決算書から読み取れます。

 

2016年3月期には18億5千万円もあった支払利息が、2017年3月期には1億8千万円と10分の1以下になったのです。

 

もし、この支払利息の大幅な減少がなければ、2017年3月期の経常利益は7億円ですから、確実に経常赤字に陥っていた計算になります。

 

ワタミはこの借入金の返済により、これまで金利負担が重荷になっていた経営から一転、身軽になって利益を上げやすい体質に転換したといえます。

 

今期の業績予想は、売上高960億円、最終利益で1億円を見込みますが、本物の回復で最終黒字を果たすというシナリオは現実味を帯びてきたといっても決して過言ではないでしょう。

 

■ ワタミが完全復活を果たすために気を付けなければならないこととは?

 

確かに財務的には回復の兆しが見えますが、ワタミにとってはまだまだ安心できる状況ではありません。

 

やはり、特に世論を刺激しないよう慎重には慎重を期す必要があります。

 

ワタミは、かつてブラック企業の烙印を押され、そのブランドは地に堕ちて業績不振に陥りました。

 

顧客離れが加速して虎の子の介護事業を手放してまで再建に取り組んできた経緯があるのです。

 

ここでまた評判を下げるような事態となれば、せっかく見え始めた復活の兆しがまた遠のくことになりかねません。

 

ただ、そのような自社の置かれた状況を知ってか知らずか、先日も物議を醸す事態が起こりました。

 

ワタミは来年度の新卒採用に際して、次のような条件で募集を行ったのです。

 

“初任給
基本給202,100円 (月間127時間分の深夜みなし手当30,000円、営業手当10,000円含む)
※127時間を超えた時間外労働については追加支給“

 

これは、月間127時間分の深夜みなし手当は3万円で基本給の中に含まれているということになりますが、「127時間の残業をしてわずか3万円しかもらえないのか!?」とネット上で話題となったのです。

 

ワタミはこの件に関して、誤解を与える表現だったと謝罪に追い込まれますが、かつてワタミの長時間残業が社会問題化した経緯を考えれば、募集条件を提示する前に誤解のないよう細心の注意を払う必要があったといえるでしょう。

 

もし今後もそのような配慮を欠くなら、「やはりワタミは変わっていない」と社会の信頼を再び損ね、回復の兆しに冷や水を浴びせることにつながりかねません。
 
マクドナルドもかつて異物混入などの不祥事によって社会的な信頼を失い、危機的な状況に陥りましたが、もう2度と起こさないという不退転の決意と誠意ある行動で信頼を回復してきました。
 
ワタミもこれからの復活が本物になるかどうかは、過去の過ちを深く反省し、自ら進んですべてのステークホルダーとの関係をより良い方向へ変えていく意識が重要なことは言うまでもないでしょう。

 

※ワタミの2017年3月期キャッシュフロー計算書

 

■ 営業活動によるキャッシュフロー

 

■ 投資活動によるキャッシュフロー

 

 

■ 財務活動によるキャッシュフロー