■ V字回復を見せたスカイマーク
経営破綻からわずか1年余り。スカイマークは、民事再生の手続きを終結し、V字回復を成し遂げています。
6月29日に公表された2016年3月期の決算では、売上高が721億円、本業の儲けを示す営業利益は15億円の黒字化を果たしました。
破綻前の2015年3月期は、9ヶ月間ですが、売上高643億円に対して、営業利益は113億円の赤字に陥っていたことを踏まえれば、急速に業績が回復したことがわかります。
ただ、2016年3月期も1,817億円にものぼる損害賠償金の負担が大きく、最終損益は393億円の赤字となっていますが、来期にも特別要因がなければ最終黒字化することも決して不可能ではないといえるでしょう。
■ そもそも、なぜスカイマークは破綻したのか?
わずか1年余りで再生を果たしたスカイマークですが、そもそもなぜ経営破綻に追い込まれたのでしょうか?
分析を行っていくといくつかの要因が重なって、急速に経営が傾いたことが浮き彫りとなります。
(1) 経営者の判断ミス
まず、最大の要因は経営者の判断ミスと言えるでしょう。
スカイマークは、悲願ともいえる国際線の進出にあたって、“空飛ぶホテル”と称されるエアバス社の大型旅客機『A380』を6機発注します。
A380は1機あたり300億円以上、総額で1,915億円もの大型投資に踏み切ったのです。
ただ、当時のスカイマークの売上高は900億円にも届いておらず、明らかに無謀な賭けに打って出たといっても過言ではないでしょう。
そして案の定、スカイマークは外部環境の悪化で赤字に転落すると、2機の購入を延期し、残る4機の発注はキャンセルしたい旨をエアバス社に伝えます。
それに対し、エアバス社はすでにスカイマークが支払った前払い金の265億円を没収したうえで、700億円にものぼる違約金を請求してきたのです。
赤字に転落したスカイマークに、このような多額の違約金を支払う余裕などなく、苦渋の決断として民事再生法を申請せざるを得ない状況に追い込まれてしまったというわけです。
(2) 無借金経営で銀行からの支援が望めなかった
また、スカイマークの決算書を分析すると、銀行からの借入金が一切ないことがわかります。
つまり、スカイマークは無借金経営を行っていたのです。
一般的に、銀行借入に頼りすぎると、倒産リスクが高まると言われていますが、スカイマークの場合、逆に銀行借入が全くなかったために、あっという間に倒産したといえるでしょう。
日本において、普段から銀行との関係が良好であれば、業績不振に陥った際には、メインバンク主導で再建が進められることがあります。
銀行も貸し倒れだけは避けたいので、融資や企業ネットワークをフル活用して、経営再建をサポートしていくのです。
ところが、スカイマークの場合は無借金でメインバンクが存在しないために、業績が悪化し資金が足りなくなった段階で、預金口座のある銀行に助けを求めたとしても、余程しっかりとした担保がなければ、銀行は融資に二の足を踏み、貸付金もないために敢えて支援しようというインセンティブは働かないのです。
破綻直前に、スカイマークに残されたキャッシュはわずか7億円。これに対し営業未払金は65億円まで膨れ上がっており、このような状況で投資も融資も引き出せなければ、通常の運転資金も賄えず、まさに“お手上げ”状態になってしまったのです。
つまり、スカイマークはメインバンクを持たないがゆえに、“サドンデス”につながったともいえるのです。
(3) 外部環境が悪すぎた
最後の3点目は、外部環境です。
航空会社にとって、燃料費はコストの中でも非常に大きなウェートを占めています。
国際線の場合は、サーチャージと称して、燃料費が高騰した際に料金に上乗せすることによってリスクをヘッジしていることからも、その影響力の大きさがわかります。
スカイマーク破綻前の原油価格の水準は100ドルを大きく超え、航空会社にとっては大きな負担となっていました。
しかも2012年12月に安倍内閣が誕生すると、“アベノミクス”による経済対策でそれまでは90円前後だった為替水準が一気に円安に振れ、100円を超える水準にまで円安ドル高が進行。スカイマークは、このように燃料である原油価格の高止まりと円安のダブルパンチで、多大なコスト負担から、営業赤字に転落することになったのです。
■ スカイマークのV字回復を実現に導いたものとは?
それではスカイマークは、このようなどん底からどのようにして短期間で復活を成し遂げたのでしょう?
主な要因としては次の2つが挙げられます。
(1) 外部環境の好転
高止まりしていた原油価格は、アメリカでこれまで困難とされてきたシェール層からの石油や天然ガスの抽出が可能になった“シェール革命”により、大きく下落することになります。
それまで、1バレルあたり100ドルを超える水準で取引されていた原油価格は、最低20ドル台にまで落ち込むと低位で安定。ドル円の為替相場は、アベノミクスの影響でさらに円安が進んで120円台を付けたものの、原油価格の値下がりの影響が大きく、コストを大幅に削減することができたのです。
(2)不採算路線からの撤退による効率の向上
加えて、不採算路線から撤退し、搭乗率の向上を図ったことも功を奏したといえるでしょう。
スカイマークは破綻前、最高で月間5,334便の運航を行っていましたが、破綻直後は最低3,458便まで絞り込みます。
結果として搭乗率は向上し、最近の9か月間は80%を超えるという好調を維持しているのです。
このような理由でスカイマークの業績は驚異的な回復を見せていますが、まだまだ予断は許さない状況といっても過言ではないでしょう。
外部環境でいえば、過度な円安が進まずに、原油価格の低位安定が続くかどうかということが重要な要件になりますし、内部に目を向ければ、同じ失敗を繰り返さないよう適切な経営判断が欠かせません。
企業の業績は外部環境によって大きく左右され、経営者の経営判断次第で急速な成長を実現することもできれば、危機的な状況に陥ることもあるのです。
そこで、経営者には自社を取り巻く外部環境を正確に読み解く鋭い分析力とそれに対応する適切な経営判断能力が求められているといえるでしょう。