■ 業績浮上の糸口さえ見えないマクドナルドの迷走


マクドナルドの顧客離れが止まることを知りません。

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6日に発表された20141月ー9月期の決算は、売上高が前年同期比127%減の1722億円、最終損益は前年同期には63億円の黒字を計上していたものの、今期は一転75億円の赤字に転落してしまったのです。

特にここ4ヶ月は、全店売上が前年同月比、7月マイナス18%8月マイナス26%9月マイナス17%10月マイナス18%と深刻な売上減から立ち直る兆しさえ見えない状況なのです。

この大きな不振の原因となったのが7月に発覚した原料の仕入先である中国工場の期限切れ鶏肉の使用問題。

この事件が、ニュースで日本の消費者の間に広まると、この工場から仕入れていたマクドナルドのチキン関連商品に対する不安が一気に高まりました。

そこで、マクドナルドは既存の在庫を廃棄し、今後はこの工場から一切原料を仕入れないことを発表するなど、火消しに追われました。

ただ、一度失った信用は取り戻すことが難しいということなのでしょう。

マクドナルドとしては、数々の新商品を投入したり、新しく生まれ変わったチキンマックナゲットを無料で試せるクーポンを配布したり、あの手この手を繰り出して顧客を呼び戻そうと懸命に努力しますが、どれも空振りに終わり、苦戦を強いられているのです。


■ 全店禁煙に踏み切ったマクドナルドの狙いとは?


そんな中、最近マクドナルドが実施した全店禁煙が物議を醸しています。

これまでもマクドナルドは店舗内での禁煙を進めてきましたが、8月までに全店で喫煙スペースを廃止したのです。

この全店禁煙の背景には恐らくメイン顧客層と考えるファミリー層にクリーンな環境でおいしく料理を食べてもらおうという意図があるのでしょう。

私自身、タバコは吸わないので食事中にタバコを吸われると不快な気分になり、料理をおいしく感じられないと思っていたので、マクドナルドのこの決断には大賛成です。

マクドナルドも、禁煙にしたくらいでは、喫煙者の来店動機が全くなくなるとは予想していなかったのではないでしょうか。

ところが、とある店長の現場の声では、この喫煙スペースの廃止により、目に見えて顧客数が減ってしまったというのです。

私自身、定期的にマクドナルドを訪れて、顧客の様子を観察していますが、禁煙スペースがまだあった頃は、確かにコーヒー1杯で新聞片手にタバコを吸うビジネスパーソンがたくさんいました。

これらの顧客の多くが、一斉にマクドナルドから他に移っていってしまったということなのです。


■ なぜ喫煙者はマクドナルドから離れて行ってしまったのか?


それでは、なぜ喫煙者はこれまで利用していたマクドナルドから別の店へ移ってしまったのでしょうか?

理由は非常にシンプルです。

喫煙者は、コーヒーやハンバーガーなど、マクドナルドの商品を目当てに来店していたのではなく、タバコを吸うスペースを求めていたのに過ぎないのです。

つまり、喫煙者はたとえばコーヒーに100円の価値を見い出してたのではなく、タバコを吸う環境を手に入れたいがためにコーヒーに100円を支払って、マクドナルドを利用していたというわけです。

顧客が求めているのは、企業が提供する商品だけではありません。

商品を利用する環境を含めて価値を判断しているのです。

ですから、タバコが吸えるという環境がなくなれば、コーヒー1100円ですらその価値を感じなくなり、マクドナルドから足が遠のいてしまったということなのです。


■ 果たしてマクドナルドの全店禁煙という“戦術”は失敗だったのか?


多くの顧客離れを招いたという意味でマクドナルドの全店禁煙の決断は失敗だったのでしょうか?

私自身は決して失敗だとは思っていません。

戦略とは取捨選択であり、今回は喫煙者というターゲットを“切り捨てた”ということになり、より戦略の方向性を明確にした正しい決断だと感じています。

マーケティングが効果を発揮するためには顧客を絞り込んでいく必要がありますが、全店禁煙にして喫煙者を諦めることにより、メイン顧客と考えるファミリー層をより取り込んでいこうという決意の表れなのではないでしょうか。

ただ、大きな問題は戦術がちぐはぐで、戦略の整合性が取れていないところにあるのです。

いくら戦術一つひとつが理に適った素晴らしいものでも、戦略として全体最適が実現できていなければ、効果が出ないばかりか逆効果になることさえあり得ます。

戦略とは、水が上から下へ流れるように、分断されずに一貫した流れを実現して初めて絶大な効果を発揮するようになるのです。

つまり、ファミリー層を重視して環境を整備したのなら、息つく暇もなくファミリー層が望むメニューを提供したり、来店動機を促すプロモーションを展開したり、一貫性のある戦術を組み合わせてメインターゲットを取り込んでいく必要があります。

この戦術間の連携がうまくいっていないために、切り捨てた喫煙客は流出したうえに、取り込もうとしているファミリー顧客も思惑通りに動いてくれないという最悪の事態に陥ってしまったのです。

ここ数年、顧客の変化でニーズを捉えきれずに業績不振に陥ったマクドナルドですが、復活するために鍵となるのは、揺るぎないビジョンと整合性の取れた戦略といえるのではないでしょうか。