それでは実際にオリエンテーションの場で部下の想いを理解するために具体的に聴いていくことを考えてみましょう。
そのまま使える質問で考えていきましょう。
①オリエンテーションの意味
「オリエンテーションという言葉の意味をどのようにとらえていますか?」
前述の通り、オリエンテーションをここで言っている意味でとらえている人はほとんどいません。部下がどう理解しているか確認して、説明をしましょう。
②価値観
「あなたが仕事をする上で、大切にしていることはどんなことですか?」
「仕事を通じて、金銭的な報酬以外で得たいことはなんですか?」
「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」
「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」
部下の価値観を理解します。
しかし、これでなかなか意見が出てこない部下もいます。そのような部下には次の質問で具体的に過去の出来事などを聴いていきます。
③経験など
価値観を聴いてなかなか出てこないことがあります。そのような場合は、
「あなたのこれまでの経験で、誇りに思う事柄はどんなこと?」
「あなたが得意とする知識・スキル・資質・特性はなんですか?」
「どんな時が楽しい?」
とより具体的な事を聴いていきましょう。
④強み
「あなたの優れた能力のトップ3はなんですか?」
「あなたの強みはなんだと思う?」
部下が自分で意識している能力・強みを言語化させます。「とくにありません」と返事をする部下もいます。その中には、謙遜ではなく、ほんとうに自分には何も強みはないと思っている人もいます。しかし、まったく何も能力や強みがない人などいません。
「以前の仕事あるいは学生時代にはどんなことが好きだった?」
などとハードルを下げて聴き直します。
⑤目標
「あなたがこの1年間で、取り組みたいテーマはなんですか?」
「この1年間は、これからの5年にとってどんな位置づけですか?」
目標は会社から与えられるものと考える部下も多くいます。もちろん、売上目標等は会社・部署から降りてくるでしょう。ここでは、部下個人が自分の成長のためにあなたのチームの中で取り組みたいテーマを聴きます。もちろん、配属されたばかりの部下は「なにもない」とか「わからない」と答える場合もあります。そのときは会社からの目標以外に自分の成長のために何かに取り組んでほしいことを伝え、時間がかかってもよいので考えてもらうようにしましょう。
⑥チームワーク
「あなたが好ましいと思うコミュニケーションのスタイルは?」
「上司と部下の関係はどのようなものだと思います?」
「このチームにおいて、私(上司)の役割や責任はなんだと思います?」
「では、このチームにおいて、あなたの役割や責任はなんだと思います?」
チームワークとチームにおける役割について現時点での考えを聴きます。
⑦ルール
「お互いに守らなければならないルールはなんだと思う?」
「あなたが、やってはいけないことはなんだと思う?」
オリエンテーションの最初であなたはチーム内のルール等について説明しました。ここでは、部下がそれらをしっかり理解しているかを確認します。また、部下から新しい好ましいルールの提案があれば歓迎します。
⑧上司の支援
「私(上司)は、あなたに何を期待していると思う?」
「あなたが私(上司)に期待していることはなに?」
「私(上司)は、あなたの成長の為にどんな支援をしたらいい?」
「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」
上司であるあなたは部下を全力で支援する存在です。しかし、部下が期待する支援の仕方は部下それぞれによって異なります。どのような支援を部下自身は望んでいるのかを明らかにします。
これらの質問によって部下の理解が進みます。
しかし、どの質問でもすぐに適切な答えやコメントが部下から出てくるとは限らないことを忘れないでください。部下はいままでこのような質問をともなうオリエンテーションを受けたことがないのです。部下に考える時間を与える、あるいはいっしょに考えていこうと提案してください。
もし部下からあまりに何も出てこない場合は部下が考えていないのではなく、あなたとラポール・信頼関係がまだできていないために言いたくないからなのかもしれません。本章の最初に戻り、ラポールを築くことからやり直してください。
本章ではオリエンテーションを解説しました。本書のオリエンテーションは、一般に考えられている就業規則などを説明するオリエンテーションとまったく異なります。まず、新人とラポール・信頼関係を創ります。そのためには「聴く」スキルを身につける必要があります。そして、オリエンテーションではやるべきことは二つあります。ひとつは、新しくあなたのチームに配属された新人に対して、チーム内での暗黙のルールや決まり事、守ってほしいことなどを詳しく説明し、合意を得ることです。もうひとつは、新人のことを理解することです。そのためには、彼女・彼の価値観や想いなどを質問によって理解します。
このオリエンテーションによって新人はより早くあなたのチームへ溶け込み、戦略化します。