それでは実際にオリエンテーションの場で部下の想いを理解するために具体的に聴いていくことを考えてみましょう。

そのまま使える質問で考えていきましょう。

 

①オリエンテーションの意味

「オリエンテーションという言葉の意味をどのようにとらえていますか?」

前述の通り、オリエンテーションをここで言っている意味でとらえている人はほとんどいません。部下がどう理解しているか確認して、説明をしましょう。

 

②価値観

 「あなたが仕事をする上で、大切にしていることはどんなことですか?」

「仕事を通じて、金銭的な報酬以外で得たいことはなんですか?」

「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」

「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」

 

部下の価値観を理解します。

しかし、これでなかなか意見が出てこない部下もいます。そのような部下には次の質問で具体的に過去の出来事などを聴いていきます。

 

③経験など

価値観を聴いてなかなか出てこないことがあります。そのような場合は、

 

「あなたのこれまでの経験で、誇りに思う事柄はどんなこと?」

「あなたが得意とする知識・スキル・資質・特性はなんですか?」

「どんな時が楽しい?」

 

とより具体的な事を聴いていきましょう。

 

④強み

「あなたの優れた能力のトップ3はなんですか?」

「あなたの強みはなんだと思う?」

 

部下が自分で意識している能力・強みを言語化させます。「とくにありません」と返事をする部下もいます。その中には、謙遜ではなく、ほんとうに自分には何も強みはないと思っている人もいます。しかし、まったく何も能力や強みがない人などいません。

「以前の仕事あるいは学生時代にはどんなことが好きだった?」

などとハードルを下げて聴き直します。

 

⑤目標

「あなたがこの1年間で、取り組みたいテーマはなんですか?」

「この1年間は、これからの5年にとってどんな位置づけですか?」

 

目標は会社から与えられるものと考える部下も多くいます。もちろん、売上目標等は会社・部署から降りてくるでしょう。ここでは、部下個人が自分の成長のためにあなたのチームの中で取り組みたいテーマを聴きます。もちろん、配属されたばかりの部下は「なにもない」とか「わからない」と答える場合もあります。そのときは会社からの目標以外に自分の成長のために何かに取り組んでほしいことを伝え、時間がかかってもよいので考えてもらうようにしましょう。

 

⑥チームワーク

「あなたが好ましいと思うコミュニケーションのスタイルは?」

「上司と部下の関係はどのようなものだと思います?」

「このチームにおいて、私(上司)の役割や責任はなんだと思います?」

「では、このチームにおいて、あなたの役割や責任はなんだと思います?」

 

 チームワークとチームにおける役割について現時点での考えを聴きます。

 

⑦ルール

 「お互いに守らなければならないルールはなんだと思う?」

「あなたが、やってはいけないことはなんだと思う?」

 

オリエンテーションの最初であなたはチーム内のルール等について説明しました。ここでは、部下がそれらをしっかり理解しているかを確認します。また、部下から新しい好ましいルールの提案があれば歓迎します。

 

⑧上司の支援

「私(上司)は、あなたに何を期待していると思う?」

「あなたが私(上司)に期待していることはなに?」

「私(上司)は、あなたの成長の為にどんな支援をしたらいい?」

「このチームで仕事することは、あなたにとってどんな意味がある?」

 

上司であるあなたは部下を全力で支援する存在です。しかし、部下が期待する支援の仕方は部下それぞれによって異なります。どのような支援を部下自身は望んでいるのかを明らかにします。

 

これらの質問によって部下の理解が進みます。

しかし、どの質問でもすぐに適切な答えやコメントが部下から出てくるとは限らないことを忘れないでください。部下はいままでこのような質問をともなうオリエンテーションを受けたことがないのです。部下に考える時間を与える、あるいはいっしょに考えていこうと提案してください。

もし部下からあまりに何も出てこない場合は部下が考えていないのではなく、あなたとラポール・信頼関係がまだできていないために言いたくないからなのかもしれません。本章の最初に戻り、ラポールを築くことからやり直してください。

 

 

本章ではオリエンテーションを解説しました。本書のオリエンテーションは、一般に考えられている就業規則などを説明するオリエンテーションとまったく異なります。まず、新人とラポール・信頼関係を創ります。そのためには「聴く」スキルを身につける必要があります。そして、オリエンテーションではやるべきことは二つあります。ひとつは、新しくあなたのチームに配属された新人に対して、チーム内での暗黙のルールや決まり事、守ってほしいことなどを詳しく説明し、合意を得ることです。もうひとつは、新人のことを理解することです。そのためには、彼女・彼の価値観や想いなどを質問によって理解します。

このオリエンテーションによって新人はより早くあなたのチームへ溶け込み、戦略化します。

 

 

 

 

ポイント1: ポジション

相手が安心感を持てる距離や位置(ポジショニング)に配慮します。2章で説明した通り、人にはちょうど自分で快適と思える相手との距離・位置(方向)があります。相手に直接「どこに座るのがいい?」と訊けるのであれば聞いたり、少し動いて相手が一番心地よいと思うと言うポジションを確保しましょう。

もし相手に聞けない場合は可能ならばナナメの位置で相手の反応を確認しつつポジションをとりましょう。

 

 ポイント2: 姿勢

軽い前傾姿勢をとることで、相手への関心を示します。中年の男性に多いですがいまだにふんぞり返って椅子の背もたれに寄りかかり、腕組みまでして相手をにらみつけるような姿勢を取る人がいます。「長年の癖なのでしかたがない」と言った管理職がいましたが、こういう人にはこれからは人はついてこなくなるでしょう。

 

ポイント3: 表情

言葉に表さずとも、こちらの表情で相手に強い影響を与えることができます。とくに中高年の男性の経営者や管理職の人は無意識のうちに怖い顔をすることがあるので注意が必要です。自分ではなかなか気づきにくいので親しい人に教えてもらいましょう。私は考え事をしているときに眉間にしわを寄せる癖がありました。自分ではまったく意識していなかったのですが、人からは怖い顔をしていると思われていたようです。あるとき「なに怒っているんですか?」と言われはじめて自分で気がつきました。男性は自分の顔を鏡でじっくり見るという機会が少ないと思いますが、自分がどんな表情をしているかときどき鏡で確認してください。

 

ポイント4: アイコンタクト

目を合わせるタイミングがポイントです。ずっと相手の目を見つめていては相手も自分も疲れてしまいます。相手の目と目のあいだを見たりします。視線を外すときは下を見ると自信がない人と思われてしまうことがあります。下よりは相手の奥、うしろ、を見る、つまり、視線を上あるいは横は外すのがいいでしょう。、

 

ポイント5: うなずき

タイミングや動作で相手の話を受け止め、聞いていることを示します。わたしはあなたといっしょにいますということしっかり態度で示すのです。

 

ポイント6: あいづち

あいづちは話しの合いの手であり話しを弾ませるものです。タイミングや声の強さなどによって、相手の話を受け止めていることを示します。ちゃんと聞いているというメッセージを話し手に送るのです。

「うん、うん」

「はい」

「ええ」

「なるほど」

「ほー」

「へー」

「なるほど」

などのあいづちを積極的に言いましょう。プロのカウンセラーの先生の中には、あいづちは話し手が重要なことを言ったときや感情が動いたときにすべきで、多すぎるあいづちは意味がないというようなことを言うかたもいます。もちろん、これはカウンセラーを目指すような人には適切なアドバイスだと思いますが、私が指導する大手企業の管理職は普段あいづちが少なすぎるのです。部下の報告を仏頂面でほとんどだまって聞いている人は少なくありません。ですので、本人にとっては大げさすぎるくらいにあいづちをしてもらって話し手はようやく話を聞いてもらっているという感覚を持つくらいです。積極的にあいづちをしましょう。

 

ポイント7: うながし

話を促すあいづちを入れます。相手の発言を促進します。

「それで、、」

「そして、、」

などと言います。

話し手は言いたいことをすべて一度に言えるわけではありません。さらに、本人自身が自分の考えを意識化できていない多いのです。「それで、、」とうながしてあげることで考えを進めることができるようになります。

 

ポイント8: オウム返し

話し手が話した言葉、とくにキーワード、を繰り返します。話し手が言ったことをあなたが繰り返すと、お互いに同じ意識を共有している感覚になります。

例えば、

「大変なんです」

「大変なんですね」

というようにです。

最初のうちは、話し手の話が長い場合、言葉のどれがキーワードがとっさにわからないかもしれません。「どの言葉が重要だろう?」と考え始めてしまうとそのことに意識がいってしまい、相手の話しに集中できなくなってしまいます。そのような場合は、話し手の発言の語尾だけ真似してみましょう。

「~に賛成なんです」

「賛成なんですね」

というようにです。

 

ポイント9: ペーシング

ペーシングとは、口調、話し手のリズムや声の強弱、呼吸のペースやスピード、エネルギーに自分を合わせて聴くことです。話し手は聞いている人が自分が同じペースになるっていると感じると安心感を持ちます。

話し手が興奮して早口で話すのなら、自分も興奮しているような早口で答えるのです。

逆に、話してがゆっくり落ち着いて話すのなら、自分もゆっくりと話します。

 

ポイント10: 沈黙

沈黙も大切な聴き方のスキルです。上司によっては沈黙が耐えられないという人がいます。せっかく部下によい質問をしたのに部下が黙っていると、「どうなんだ?」「何も考えらえないのか?」「なんとか言ったらどうなんだ?」などとすぐに口をはさんでしまうのです。もしくは、「これはだな~」と自分で説明を始めてしまいます。

沈黙に耐えられないのは自分に自信がないからだと思いましょう。

部下をよく観察してなにかを一生懸命考えているようなら黙って待ちます。目の動きを見るとわかります。たいてい何かを考えている時は目が動きます。とくに過去のことを思い出している時は上を向いていることが多いです。

もし部下が行き詰っているなと思ったらそこではじめて声をかけてもいいでしょう。そのときは、

「いまどんなことを考えているのかな?」

「頭に何が浮かんでいる?」

とやさしく聴いてあげれば部下が思考を整理することを支援してあげられます。

 

これらは基本です。しかし、実際にすべてできる人は多くはありません。まずはひとつずつでいいので意識して行ってみましょう。実践で繰り返すうちにだんだん意識しなくてもできるようになってきます。(メモ:ここもうすこし丁寧に!)

 

まずは部下の話をしっかりと最後まで聞きましょう。ところが多くの管理職にとってこれが簡単にはできないのです。「自分はしっかり聞いている」という管理職でも実際にはほとんど自分が話している、というケースは少なくありません。実際、私はコンサルティングのクライアント企業で上司と部下との面談やチームのミーティングに同席させてもらい、録音させてもらったことがあります。それを分析したところだいたい7~8割は上司が話していました。そしてその面談・ミーティングのことを上司に聴くと「今日は部下の話しをよく聞いた」などと言うのです。私はそう言った上司といっしょに録音した面談の音声をいっしょに聞きました。ストップウォッチでそれぞれの発言時間を計測したり、上司にテープ起こしをしてもらったこともあります。

 

話し方やプレゼンテーションは以前よりいろいろな研修・トレーニングや本がありました。聴くことは自然にだれでもできると思われていたのです。しかし、最近は「聴く」ことは習得しなければならない重要なスキルであるということが多くの企業が気がついてきました。そのため、聴くことをテーマにした研修依頼が増えてきています。

 

相手の話しをどうしても最後まで聞けない、口をはさんでしまうというひとにお勧めしている方法を紹介しましょう。それはICレコーダーをポケットに忍ばしておいて会話を録音しているつもりになるのです。自分がパワハラかセクハラを受けて後から訴えるぞ!というつもりです。その状況ならどうするでしょう? 相手の発言をできるだけ最後までしっかりと録音できるようにするでしょう。つもり、途中で口を挟まずに相手が発言を終えるまで待つはずです。そのつもりで相手の発言を聴くのです。

 

上司はあまりしゃべらないようにすべきです。多くの場合、上司は話過ぎると何度も言いました。部下の話しを聴くときにはまず部下の言いたいことをしっかりと最後まで聴くことが大切です。とはいえ、ただ黙っていたら部下はかえって話しにくくなってしまいます。

部下が話をしやすいようにするには「パッシブリスニング」と「アクティブリスニング」の両方の聞き方が必要です。

「パッシブリスニング(受動的な聴き方)」とは「真剣に話を着ていることを相手に示す技術」であり、「アクティブリスニング(積極的な聴き方)」は「心を汲みながら、相手の話しを鏡のように告げ返していく技術」です(衛藤信之、2000)。

 

まず、パッシブリスニングは相手の話していることを真剣に聞いていることを示す聞き方です。「あいづち」や「沈黙」などがこれになります。

そして、アクティブリスニングは相手の言っていることを自分はこう受け取ったけど合っている?ということを確認するとともに相手に頭の整理をしてもらう聞き方です。

パッシブリスニングとアクティブリスニングを組み合わせた効果的な聴き方を次回にご紹介します。

 

オリエンテーションにおいて重要なことは職場のルール等をしっかりと伝えてお互いに合意を取ることだと言いました。オリエンテーションにはもうひとつ重要なことがあります。それは、部下のことをよく理解するということです。当たり前と思われるかもしれません。しかし、ほんとうに部下のことをわかっているでしょうか?

 

自分の部下について次のことをいくつ答えられるでしょうか?

 

・将来のビジョンを知っている

・この仕事でやりたい事を知っている

・仕事上の課題を知っている

・大切にしている価値観を知っている

・強みを知っている

・弱みを知っている

・やる気がなくなる

・仕事の仕方を知っている

・やる気がなくなる言い方を知っている

 

同じ内容の指示をしても言い方次第でやる気を出す部下もいれば、逆にやる気のなくなる部下もいます。

例えば、

「これはだれでもできる簡単な仕事だからさくっとやっておいて」

と言われてやる気を出してすぐにやる部下もいれば、逆に、

「そんな誰にでもできる簡単なことを俺・私にやらせるな」

とやる気が失う部下もいます。

 

一方で、

「これは非常に重要な仕事であなたにしか頼めないからよろしく!」

と言われてがぜんやる気が出る部下もいれば、不安になってしまってやる気がなくなってしまう部下もいるのです。仕事の内容はまったく同じものであってもです。

そのため、部下の性格・特性をよく理解し、部下ごとにやる気が出る言い方、やる気がなくなる言い方を使い分ける必要があります。

 

上司の多くは「部下の話しを聴く」と言うこと自体が量・質ともに非常に少ないのです。

私が研修やコンサルティング先の企業の管理職に日ごろ部下の話しをちゃんと聞いていますかという質問をすると約7割の人が「聞いている」と回答します。ところが、その人たちの部下に「上司はちゃんとあなたの話しを聞いてくれていますか?」と訊くとだいたい3割の人しか「はい」と答えません。

 

良い聞き手がいれば、人は自分でも気づいていない自分の事を知ることができます。

自由に話せる環境は、実は聞き手の聞き方にかかってきます。

 

 

ラポールを築く

 

新人とオリエンテーションによって職場のルールなどを合意を取り付ける前に実はしなければいけない重要なことがあります。それは、あなたと新人との間で信頼関係を創ることです。信頼関係がなくては何事も真の「合意」にいたることはありません。信頼関係を築くことの第一歩は相手とラポールを創ることです。ラポールとはフランス語で「架け橋」を意味します。

ラポールを創る有効な方法を2つご紹介しましょう。

 

一つ目は「YESセット」です。

YESセットとは相手が「イエス(はい)」という問いかけを積み重ねることです。

営業パーソンが見込み客を訪問したときに最初にする雑談を思い起こす人もいるでしょう。

 

「今日はいい天気ですね」

「はい」

「最近、ずっと暑いですね」

「はい」

「ようやく梅雨が明けましたね」

「はい」

「だんだんオリンピックが迫ってきましたね」

「はい」

 

こういう相手がイエスと必ず返事をするような言葉かけをするのです。こういうと安っぽい営業テクニックだと感じる人もいるかもしれません。営業の初歩の研修ではお客様からとにかく「はい」をもらえ、そのうち「契約しますか?」にもおもわず「はい」と答えるから、などと教えられることがあるからです。

しかし、YESセットはそんな単純なものではありません。

 

相手と自分が同じ考えであることをお互い意識することで感情を共有する、共感しあうことなのです。私のメンタリングの師匠である堀之内高久先生は「あらゆる人間関係はハイという返事から始まる」とおっしゃっています。

聞き手は「はい、そのとおりです。そうです」と答えていくことによって、リラックスしていき、軽い催眠状態に入っていくことになります。その人は自分自身に対して「はい」と答えることになるのです。それにより、目の前のあなたと信頼関係が自然に出て聴くるのです。

 

二つ目は自己開示です。

自己開示とは文字の通り自分について開示、話をする、することです。例で説明しましょう。

私の知り合いのある歯科医師の話しです。この方はコーチングを学びました。この学んだコーチングを患者さんに使おうと治療中に、

「○○さんはなんの制約もなかったら人生で何をしたいですか?」

「○○さんの人生の夢はなんですか?」

などと聞いたそうです。そうすると患者さんは驚いて、

「なんでそんなこと先生に言わないといけないのですか?」

とけげんな顔をして引いてしまったそうです。この歯科医師はなにが悪かったのでしょう?

そうです。患者さんとのラポールが築けていない段階でいきなりその人の人生の夢とかを聞いてしまったのがいけなかったのです。では、どうすればよかったのでしょうか? もちろん、まずは雑談やイエス・セットをかさねてラポールを少しずつ作っていくことです。私はこの人から「どうしたらよかったのか?」と相談されたので、まずその人自身の夢を聞いてみました。そうするとその人は

「そば打ちが大好きで、いまは歯医者しているけど、いずれ小さくてもいいのでこだわりの手打ちそばのお店を出してお客さんに喜んでもらうのが夢なんだ」

ということでした。私はどうしてそば打ちが好きなのか? お店まで出したいと思っているのか? どんなお店にしたいのか? どのようなお客さんに来てほしいのか?などを彼が考えていることを聞いてみました。すると、実に生き生きと楽しそうにご自身のこだわりや夢について語ってくれました。そのような夢のある人がなぜ今歯科医師として頑張っているのかもよくわかりました。その人の人柄もよく伝わってきました。そこで、私は「それならばまずご自身がその夢を患者さんに話してみてはどうですか?」とお勧めしました。それから、彼はまご自身の夢を楽しいそうに患者さんに語ったそうです。歯科医師が蕎麦屋を開きたいという意外性に患者さんたちは興味を持ったそうです。これまで以上に親しみを感じてくれたようです。

 

そして、そこで、

「ところで、○○さんはどんな夢がありますか?」

と訊くと患者さんもいろいろな夢や希望を話してくれるようになり、「あの先生は面白い」と評判が上がってリピーターも増えたそうです。

まずは自分から自分のことを話す、自己開示することを心がけましょう。

 

とはいえ、自分のことをなんでも話せばいいというわけではありません。初対面の人にいきなり「私は子供のころにトラウマがあって、、、」などと話しても引かれてしまうだけです。相手と時と場合に合わせた自己開示が必要です。そうは言ってもいきなりその場に応じた適切な自己開示は簡単にはできません。ですから、あらかじめいくつかの自己開示のネタを用意しておくことが必要です。

ネタとしては楽しい事、自分がワクワクすることがいいです。相手が「なるほど」と受け入れてくれることです。

 

上司であるあなたとチームにとっての新人との間でまず「合意」することが大切だと述べました。合意する内容はチーム内でのルールなどです。

 

では、もし合意できなかったらどうしたらよいのでしょうか?

あなたのチームとして守らなければならないルールは守ってもらうしかありません。もし新人がどうしても守れない・守りたくないというのであればチームを外れてもらうしかありません。そこは毅然とした態度が必要です。

オリエンテーションの一番の目的は「新人を溺れさせない」ことです。

 

英語で"Swim or Sink"と言う言葉があります。「泳げないなら溺れてしまえ!」という意味です。新人を勝手にやらせてみて、できるなら(泳げるなら)そのまま使う、できないなら見捨てる(溺れるにまかせる)ということです。「お手並み拝見」という感じです。とくに幹部として入社すると短期間で自分の役割、権限、目標等を把握し、現状を分析しこれからのプランを立て、部下と面接をして各部下の実力を把握し、部下からの尊敬を勝ち取り、チームを新しいスタートさせなければなりません。それらすべてが最初の位一四半期(90日)でできないと「管理職失格」の烙印を押されかねません。

 

欧米系の企業では入社して最初の3か月は「ファースト90デイズ(最初の90日)」と言われてこの時期が最も大切とされています。この時期に「できる人」と判断されないとそのまま埋もれてしまい、よほどの事がない限り出世街道には乗らないという不文律があります。

 

実際、私がある大手外資系企業の幹部にヘッドハンティングによって転職したときも年間の売上目標を与えられただけで、仕事の仕方などいっさい教えられませんでした。そして、3か月たったときに上司からいきなりクビを宣告されました。この上司はアメリカの本社にいたので私は日常的にあっていたわけではありません。入社してから彼に会ったのは全世界の幹部が集まった会議のとき一回だけだったのです。彼は私をクビにする理由として『お前は会議の時に後ろの席にすわってほとんど発言しなかった。お前には積極性がない。日本のトップがこれでは困る』と言いました。彼としては限られた時間の中で私の特性を見ようとしたようでした。私としては『バカ言うな!』と思いました。その会議はその前期の各国の業績を検討評価するもので、入社したばかりの私としては今回は会社の業況を理解する場と思ていました。もともと『NOを受け付けない男』と言われていた私は、粘り強く最後まで引かずに交渉するのが常で、自己主張は弱いほうではありません。そうでなければ外資のコンサル、セールスやマネジメントで30年もやってこられるはずはありません。

「こういう視点で見て、こういう評価をする」ということを事前に教えてさえおいてくれればこんなことはなかったと思います。

 

実は、欧米企業でもこの"Swim or Sink"式は現在ではあまりに非効率であり、会社と本人の双方にとってメリットはないということで見直されています。新しく会社に入ってきた人や新しい地位に就いた人に対して、とりわけ初期の移行(トランジション)期間にはていねいに上司による1on1や別の部署の先輩や人事部あるいは外部のプロのコーチによるコーチングをつけてサポートをするということが行われてきています(例えば、Dan Ciampa、Michael Watkins、2005)

 

オリエンテーションが必要な理由は新人は職場の暗黙のルールはわからないからだと言いました。実際には、ルール等だけではなく「常識」さえ人によってまったく異なることがあります。

 

私がスウェーデンに本社のあるソフトウエア企業の日本法人の社長をしていたときのことです。当社製品を使ってくださっていた国内の大手企業で不具合が発生して正常に動かなくなってしまいました。当然、お客様はカンカンで、「すぐ直せ」と言いました。私は本社の技術サポートと開発部門に連絡をとりました。当時この会社はまだベンチャーで会社規模は小さく、この不具合が発生した箇所を直せるエンジニアはひとりしかいないということがわかりました。彼と連絡ととって事業を説明すると「その不具合はたいしたことないから一週間で直せる」と言う事でした。私は安心してお客様に「来週には修復できます」と伝えました。そして、土曜日の明け方(スウェーデン時間の金曜の夜中)に彼にメールを送りました。するとすぐ返信が来たのです。私は「こんな遅くまで働いているんだ。ありがたい」と思いました。さっそくメールを開けると自動返信で「今日から3週間夏休みを取ります。休み中メールにはアクセスできません」と書いてあるのです。私は驚きました。

 

「この不具合どうしてくれるんだ?」とぼうぜんとしました。

 

まさか、お客様に担当者が夏休みに入ってしまったので直せませんとは言えません。「この問題ですが思っていたより根が深いことがわかりまして、、」などと言い訳をしてなんとか引っ張りました。そして、3週間後、このエンジニアが戻ってきたら数日で不具合は治りました。つまり、彼の営業日(稼働日)としてはたしかに1週間だったのです。スウェーデンでは当時企業は社員に最低3週間の夏休みを取らせることを義務付けていました。ですから彼が休みを取ったのは彼からすれば当然の権利ではあったのです。

 

「こんなことがあるんだ」と私はカルチャーショックを受け驚きました。もっとも、「NOという返答を受け付けない男」というニックネームを本社から頂戴していた私に、彼は「来週から夏休みだ」などと言えなかったようです。もし彼がそう言えば、必ず私から「休みを取りやめて、不具合直せ」と言われるに違いないと思ったようでした。もちろん、私はそう言っていたでしょう。

 

私が事前に彼と合意・確認しておくべきことはなにだったでしょうか? 

このケースは、彼にうまくしてやられた感はあります。しかし、もし私が「一週間というのは来週の○曜日、○日までということだよね?」と具体的に明確に合意しておけば彼も逃げられなかったでしょう。「今日中」は人によっていつまでなのか異なるという話しをしました。「一週間」だって、文化の違う外国人との間ではこれほど解釈が異なる、解釈を都合よく変えられる場合もありうるのです。

しかし、このような「常識の違い」は外国人との間にのみ生まれるものではありません。むしろ、日本人同士の世代間の違いのほうが今は大きくなっている場合があると企業研修をしていて感じます。日本のコーチングの第一人者の谷口貴彦マスターコーチは「10歳、歳が違えば宇宙人だと思え」と言っています。 

これだけ違いのある部下を育てていかなければいけないのです。

 

オリエンテーションにおいて重要なことは自チームのルールなどを新人に一方的に話すことではありません。ひとつひとつの内容について上司であるあなたと新人の部下との間で合意を取り交わすことです。合意とは双方向な取り決めであり、両者が同じ意味で同じ理解にいたるということです。上司と部下は役割と責任が異なるだけでひととしては対等なのです。ですからあなたの職場・チームにある暗黙のルール等はお互いに合意する必要があります。

 

「上司は部下に指示すればいいのではないか? 合意を取るなど部下を甘やかすことではないか?」

と考える人がいます。それは間違っています。「合意を取る」ということは部下にもコミットさせるということです。部下をひとりの大人として扱うから責任も持たせるということなのです。

 

オリエンテーションで新しい部下に話しておくべきことは次のようなものがあります。

 

・課題

・ルール

・目標

・目的

・役割分担

・報告方法

・責任

・評価基準

・優先順位

・連絡方法

など。

 

このようなことを事前に話し合っておくのです。

 

「どうして部下はこんなこともできないのか?」とあなたは思うかもしれません。しかし、部下からしてみれば「どうやってやるのかやり方を教わっていない」という場合は多いのです。「やり方くらい自分で考えろ!」、「わからないのに聞きに来ないほうが悪い」 そう思いますか? その結果が若手の高い離職率につながっていると思いませんか?

 

もしあなたが転職や異動で新しい役職についてあなたの上司がこのようなオリエンテーションをしてくれない場合(現状ではこちらのほうが圧倒的に多いでしょう)、はあなたのほうから上司にオリエンテーションの場をリクエストしましょう。そうはいってもほとんどの上司はオリエンテーションと言われてもなんのことだかわかりません。

ですから、あなたのほうから上司に「ルール」を聴くのです。

あなたがいきなりチームを任され部下を持つことになったら部下といっしょにルールを作りましょう。あなたが部下に望むことがあればここではっきりと言い、部下と合意します。

 

通常、どのチームにも明文化されていない独自の決まり事やメンバー間の承知事項があります。「暗黙知」と言ってもいいでしょう。明文化されていないわけですから新しくチームへ入ってきた人はわかりません。

 

仕事に慣れるにしたがってわかってくる、何かわからないことがあったら上司・先輩に聞け、というというのが多く行われていることです。しかし、新しく入ってきた人はそれらを理解し「我が事」として行動できるようになることは簡単ではありません。

 

日常的な言葉でも職場の中では一般的な意味とは異なる使われ方をされている場合は少なくありません。

たとえば、「今日中」と言われたらあなたは何時までのことだと思うでしょうか? 

もし上司から

 

「このあいだ行った出張の報告書まだ出していなかったよね。提出期限すぎているから今日中に出しておいて」

 

と言われたとします。何時までに出せばよいでしょうか? あなたの会社の終業時間は午後6時だとします。私はこの質問をコンサルティング先の多くの会社の人に聞きましたが答えは人によってかなり異なります。3割くらいの人は「定時の6時までに提出する」と言います。また、「業務で忙しいのに出張の報告書なんて勤務時間内に書けない。その日の仕事が終わってから書くから提出するのは午後7時か8時ころ」と言う人もいました。あるいは、「帰宅してからテレビでも見ながら書いてメール添付で送るから午後10時くらい」とか「今日中なのだから午前0時前に送ればいい」と考える人もいます。また、どうせ夜中にメールを送っても上司も読むはずはないから翌日の午前9時までに送ればいいと考える人もいます。

 

つまり、今日中というのは翌日の始業時間までのことだという考えです。これが金曜日だと月曜の朝一までに送ればいいのだ、という解釈をする人もいました。実はわたしもその考えでした。

 

ですから、うちのチームによって「今日中とは午後x時まで」というルールを決めて全員で合意しておく必要があるのです。あるいは「今日中のように人によって解釈が分かれる言い方をするのはやめよう。かならず何日何時と日付時刻指定するようにしよう」と事前に合意しておけばよいのです。

 

「今日中とは何時まで?」などというのはバカバカしいことのように思う人がいるかもしれません。しかし、このような基本的な言葉が人によって解釈が異なることがよくあります。そして、その人によって理解が違ったまま時間がたってしまい、気がついたときには間に合わなくなる、ということが起こりえます。

 

「私が見ている世界とあなたの見ている世界は違う」のです。

 

NLP(神経言語プログラミング)という実践的な心理学の手法ではこのことを

「地図は領地ではない」

という言い方をします。地図はどんなに精巧なものでも領地(地形)そのものではなく、ひとつの解釈です。

スポーツの指導でもよく指導者が選手に「集中しろ!」とか「気合を入れろ!」などと言います。しかし、具体的に「集中する」、「気合を入れる」とはどういう状態・態度・心境のことなのか言われたほうの選手はみな理解しているでしょうか? 

それぞれが自分が正しいと解釈したことをしている場合が多いでしょう。それがほんとうに正しくて、かつ指導者と選手が同じ理解をしているのならば問題はありません。しかし、お互い異なった解釈をしたままではしっかりとした指導は出来ないのではないでしょうか?

 

重要なことは、自分のチームの中でみんながこのとおりにしている、マネージャーであるあなたがチームメンバーにしてほしいと思っていることです。

例えば、連絡方法で言えば「予定の変更は3日前まではメールで連絡を、2日前からは電話ですること。相手が理解したことを必ず確認すること」などと決めておくのです。そうしないと、たとえば、顧客訪問予定のキャンセルを当日メールで送ってきて「連絡はしました」などという若手がいます。

 

私がIT系企業の社長をしていたときは部下に「私宛てに承認依頼などをメールで送ってそのメールを私が見落として読んでいなくて承認されなかったとしてもそれは私の責任ではない。確認しない君たちの責任だ」と言っていました。「身勝手な社長だ」と思った部下もいたかもしれません。

 

しかし、これはコミュニケーションの本質に関係しています。コミュニケーションとは「どう伝えたか」ではなく、相手に「どう伝わったか」がすべてなのです。

 

あとになってから、「こんなやり方ではダメだ」と言われたら、部下も困るし、言うあなたも時間と労力が無駄にかかります。お互いの誤解のないように事前に明らかにしておくのです。

 

オリエンテーションとは?

 

あなたの部署・チームに新人が入ってきたことのことを考えてみましょう。新人とは、新卒の場合もあるし、中途採用の転職者や社内から異動してくる人もいるでしょう。その新人に、歓迎会以外に、あなたはまず何をするでしょうか? もちろん、その人にしてもらいたい仕事の説明はするでしょう。

 

そのあとはどうでしょうか? ひと昔前までなら、

「お前か、新人は。とりあえず外回りね!」

などと送り出していたかもしれません。とくになにがあるというわけではなかった場合が多かったのではないでしょうか? しかし、このような昭和の根性的なやり方では今の若手には通用しません。新卒者が3年以内に3割退職してしまうのが現代なのです。

 

そこで、あなたのチームに新人が入ったらぜひ行っていただきたいことがあります。

 

それがオリエンテーションです。

オリエンテーションと聞けば何を思い起こすでしょう?

オリエンテーションとは

「新しい関係性が創られるときにその関係をスムーズに進めるための準備」

のことです。大学なら授業の履修の方法とか試験や夏休みなどの一年間のスケジュールの説明があるでしょう。会社なら人事部から就業規則・社則や有休の取得方法などの説明を受けます。若い会社員に聴くと「入社時のオリエンテーションほど退屈なものはなかった、ほとんど居眠りをしていた」という声があります。すぐに必要ないと思われる、覚えておく必要はないことを一方的に聞かされてつまらなかったといいます。有休の申請の仕方など覚えていなくても必要になったら職場の誰かに聞けばいいと考えるのです。このようにオリエンテーションは規則などを組織の規則などを知らない新人に教えるというのが一般的な理解です。

 

私の言うオリエンテーションはこのような「就業規則などを教える」ということとは違います。もっと実践的・実務的なものです。新人が入ってきたときに、一日も早くチームになじんで、その人が実力を発揮できるように、

 

1.自チームの暗黙のルール・約束事などを教えて、上司と部下とで合意とる

2.部下のことをより理解する

 

ことを行うことです。

 

このようなオリエンテーションをほとんどしないで、いきなりに近いくらいすぐに現場に放り込んでいないでしょうか? では、なぜこのようなオリエンテーションが必要なのかそして具体的にどうやるのかの説明をしましょう。