水深メーターのカウンターがどんどん上昇していく。
マリンスペイザーで進水していた時よりもスピードが速い。
数分もしないうちに、SJ-2とダイアナンは水深100mの位置に着いた。
『水深100m通過、船体、機器共に異常なし』
「こちらダイアナン、周辺海域異常なし」
ダイアナンのレーダーにもソナーにも、不審なものは映っていない。
『こちらSJ-2、予定通り200mまで潜り、レーダー探知機と通信のテストを行います』
「了解」
SJ-2の通信回路はまだ200m以上の深さでは陸上に安定した情報を送れるかどうかわからないため、ダイアナンが仲介の役割を果たす必要があった。
数分後水深200mに到達し、ダイアナンは海底の岩棚に待機した。
「さすが、マリンスペイザーの性能を踏襲しただけのことはあるわ」
現在地球上に存在する潜水機能を持つ機体としては、宇宙科学研究所のウルトラサブマリンが最高潜行限界深度を保持している。
次いでマリンスペイザー、そしてこのダイアナンが400mまで潜水可能だ。
宇宙科学研究所には、世界各国から軍備増強提携協力の申し出があったが、宇門博士はこれらをすべて断っていた。
ベガ星連合軍との戦いのためにやむなく開発したが、これを同じ地球人同士の戦争に利用されるのはまっぴらごめんだ、という思いからだった。
平和利用や援助・救援のための出動協力は惜しまないが、軍事利用にはいっさい応じなかった。
MAに関しては、防衛軍組織であり、地球の平和を守るためとの公約を交わした上で、野中博士からの要請を受けたのだ。
公約通り、MAは平和を守るために日々奔走している。
デュークとマリアの思いは、こうして一部の人間が確実に引き継いでいるのだ。
『こちらダイアナン、SJ-2は限界潜行深度200mにてテスト中。船体及び機器類に異常は見られません』
「ひかる、ダイアナンの機体はどうだ?」
野中がモニターのひかるに訊いた。
『今のところまったく問題なしです。あと200m潜ってみないと限界値での機体状況は判断できませんけど、この程度なら余裕ですね』
「まあ今回はそれ以上潜行することはない。機器に異常が出ることもないだろう」
野中の自信あふれる声にさやかとジュンはくすっと笑った。
『博士、ずいぶんと自信満々ですね』
『まあそうでなきゃこっちだって不安でしょうがないけど』
2人のからかうような口調に野中のムスッとした表情が想像できる。
ひかるもくすっと笑った。
「ところで博士、400mまで潜っても通信は可能なんですか?」
『モニター映像は今のところ300mが限界だ。音声通信ならギリギリ400mまで可能のはずだが・・・まあそれもまだ予測段階だがな』
『大丈夫よ、ひかる。そこまで潜らなきゃならない事なんて、そう滅多に起きないから』
「いえそうじゃなくて・・・さやかさん、すごくキレイなんですよ、ここ。見えますか?」
さやかとジュンはひかるから送られてくる映像に目を奪われた。
透き通った水の中に、小さな光がたくさん浮遊している。まるで海の中の蛍のようだ。
さやかとジュンのモニターには幻想的な世界が広がっていた。
『もしあたしが400mまで潜っても、さやかさんやジュンさんには深海400mの海中を見せてあげられないのね、残念。役得!あたしの独り占めだわ』
「ずいぶんと余裕の発言ね、ひかる。さすが海の中には慣れてるようね」
「さっきまでは泣きそうな顔してたのにね」
「泣きそう、じゃなくて泣いてたんじゃない?」
「1人でお使いに行かされた子供みたいにね」
ジュンとさやかが代わる代わるひかるをからかう。ひかるは口をとがらせた。
『そ、そんな顔してませんよ。ちょっと緊張してただけなんだから・・・』
さやかとジュンが笑った。そこへ野中が割り込んだ。
『こらお前ら、リラックスしすぎだぞ。気を抜くな、何が起こるか最後までわからん』
「はーーーい」
3人は改めて操縦桿を握りしめた。
『こちらSJ-2、まもなく作業を終え、浮上の準備に取りかかります』
「了解しました」
ひかるがSJ-2の動向に注視した。
その時小さな光の群れの中に、キラッと一際光を放つ点がものすごいスピードでSJ-2に向け近づいてくるのが見えた。
「・・・何?」
ひかるはその光が向かってくる方向へダイアナンを潜行させた。
『どうしたひかる?』
『博士、何かがものすごいスピードでSJ-2に・・・』
しかしそこでひかるの声はとぎれ、無音になったかと思うといきなり---
『きゃぁぁぁぁっ!』
ひかるの悲鳴が飛び込んできた。
「ひかるっ!?」
「ひかるどうした?」
「ひかる、返事をしてっ!」
さやか、野中博士、ジュンが思いがけない状況に、ひかるに呼びかけた。
「何があったんだ?ひかる、応答しろ、ひかる!」
MA基地司令室とそれぞれ陸・空で待機するアフロダイとビューナスのコックピットの中ではダイアナンからの通信を待つしかなかった。