由香は悲しんだ…、その高校では、女子の髪型はスクールボブで襟足を刈り上げにしなければならない。
中学生三年生の由香は、いつ以来か記憶にないほど長く髪を伸ばしたままであった。肩に垂らしていた髪は、背中の中程まで伸びている。
由香は、長い髪の手入れをきちんと行い、朝起きると丁寧にブラッシングして、髪を整えている。また、トリートメントも欠かさない。そんな由香にとって、お洒落ができないということは、考えられないことであった。
「……どうして、髪を切らなければいけないのよ。それも刈り上げに…」
「しょうがないでしょ?その高校しか受からなかったんだから。」と母。
「わたし、浪人すればいいもん……いやだ……」と駄々をこねる由香に「いい加減になさい。」と一喝した母は、由香の耳をつかんで思いっきり引っ張り上げた。
「いい?これはあなたにとって最後のチャンスなの!お父さんやお母さんがどんな気持ちで毎日過ごしてるかわかってるの?!」
由香はあわてて母の手から逃げた。耳たぶをすりすりとこすると、小さなかさぶたがぽろりとはがれた。
「ごめんなさい……お母さん」と素直に謝る由香に、母は少し気勢をそがれたようだった。
「とにかく、美容院に予約するからね。」
それだけ言うと、母は部屋から出て行った。
由香はタンスから高校の制服を引っ張り出してきてベッドの上に並べた。ジャンパースカートとえんじ色のリボン、丸い襟のブラウス…時代遅れの制服はスクールボブとの愛称は抜群だった。
由香は制服を見ながらため息をついた。「こんな女子高生か……」とつぶやく。
美容院に電話して、来週の土曜日に予約を入れる。時間は午後三時ということになった。