強制的な骨格と筋肉の変形はフォーメスに生き地獄のような激痛をもたらした。嗚咽にも似た悲鳴はこの研究室の高見にまでとどき、何事かと研究員が顔をそろえて階下を見下ろした。
研究員が騒然とする中で、研究室の非常用ゲートが爆発した。爆煙の中から部外者と思われる人影を見つけ、警備兵とロマノ王のエスコーター達がゲートを取り囲んだ。
「今度は間違ってないでしょうね。何枚ドアを壊せば気が済むのよ」
「そんなこと言ったってな、沢山部屋があるんだからしょうがないだろ」
煙を払って出てきた金髪の少女の姿を認めて警備兵は銃を構えると、背後からもう二人男が現れた。三名の侵入者が戸惑いながら、肩の位置まで手を上げると、少女が「あっ」っと声をあげた。
「ロインがいた、あんなところで何やっているのよ」
巨大なモニタの前でロインは黙然と立ち尽くしていた。
要塞から送られてくる映像はお世辞にも良い映りはしていない。飛び魚のような形をした飛行機らしきものが俊敏に飛び交い、巨体な召喚獣を攻撃していることは見て取れた。
その中に一体だけ型の違う機体を見つけたルピナは、一目でヴレイだと気付いた。英雄のような彼の姿に拳が震える。
「ここは私とリウドで片付けます、その隙にルピナはロインの元へ行ってください」
シリウスは杖の先を警備兵に向けると、その先から大蛇を作り上げた。半透明の大蛇は造作もなく警備兵を薙ぎ倒した。
瞬時に避けたエスコーター達が散り散りになった隙を見て、ルピナは低姿勢でロインの傍まで滑り込んだ。
とんでもない天井の高さにルピナは圧倒されながら、一国を治めてきた堂々たる風格と威厳を放つロマノ王の前に足がたじろいだ。
「無断での立ち入りは重罪と分かっての狼藉か、フレイヤ王女、シルバーム内戦での件で碑石に誓いの碑銘を彫らされたばかりだというのに、派手な行いがお好きのようだ」
「貴方みたいに裏でこそこそしないタイプなの。それに趣味が悪いんじゃないの、今すぐロインを離しなさい。貴方達は大陸軍法会議に掛けられるわ」
剣を抜いたルピナは凛と構え、嘲笑するロマノ王を憤慨に満ちた碧眼で睨んだ。
「威勢が良いなフレイヤ王女。フレイヤ王もこれぼど勇敢な後継者に恵まれ、さぞ鼻が高いだろう。だが時すでに満ちた。「世界の空」は覚醒し、人と召喚獣を媒体とした兵器が誕生した。インジョリックサークの軍力を以ってしても、止めることはできまい。戦いの終極の先にはロマノの新世界が幕を開ける、これからは四つの大陸が個を持つ時代ではないのだ、私が世界を統一する」
昂然と力説したロマノ王はまるで自分に酔いしれるかのような高笑いを轟かせ、異常な高揚で双眸は血走る。ルピナは全身の毛を逆立てた。
「狂ってるわ。貴方はおかしい、どうかしている」
遠巻きで剣を構えることしかできないでいるルピナの後方で、シリウスとリウドはエスコーターの幻獣に行く手を阻まれていた。なんとか応戦はしているが百戦錬磨を経てきたエスコーターの幻獣に対し、実戦経験のないシリウスの魔獣では歯が立たなかった。
中央モニタに映った召喚獣の姿にリウドは我が目を疑った。変貌を遂げた弟の姿に絶句し、見る見るうちに顔面蒼白していくのを、シリウスは横目で察知した。
「お前ら何してるのか分かってんのかよ」
頭に血が上り目尻を赤く腫らして憤怒したリウドは、幻獣の死角を風の様にすり抜け、ロマノ王に殴りかかった。
だがエスコーターがリウドの拳をキャッチボールのごとく軽く受け止め、そのままリウドを腕を掴まえると、背負い投げしてしまった。
護身用程度の体術しか身に付けていないので、戦闘能力の高いエスコーターに武力行使で挑まれたら、勝ち目がないことは分かっていたが、怒りを抑えきれないリウドは何度もロマノ王に殴り掛かりその度に返り討ちにされた。
「大方、その妖魔族だってテメーがいいように使っていた宰相だろ、人の命を何だと思ってやがる、そんなクソ最悪で卑劣な王様に誰も付いてこねえよ」
エスコーターはリウドの首を掴み高々と締め上げた。ビクともしない腕力にリウドは抵抗できなかった。口の中が切れて血生臭くなった唾液が、泡と一緒に口端から滲み出た。