第105話 最愛のぬくもり | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

「二十分の稼動制限をする。もちろんダグシステムのバックアップを付けるけど、電子回線で繋げる事ができないからディウのダグファイルに乗せることになる、少し重くなることを考えてディウの神経回路は全面カットする」

ノアの自信に満ちた様に気圧され、ヴレイは言い返す際に言葉を詰まらせた。

「全面カットって、妖源の正常値や危険値のレベルが計れないし、第一外界からのノイズが雑じりすぎる、集中するのにどれだけ大変か」

 ヴレイの苦渋な表情が、それがどれだけ厳しい状況なのかを物語る。


「艦のサポートを信じて、キツイだろうけど、やってもらうしかないの」

 ノアの眉根はゆがみ、台詞の後半は非常に重々しいものになっていた。

 周囲を取り巻くクルー達の視線が、ヴレイの首が縦に振られるのを不安げに注目していた。集まる視線に重圧を感じながら、艦長として平然を装った。


「そうだな、やるしかないな」

ヴレイの言葉にクルー達は安堵し、感嘆な想いで艦長を見上げていた。

精悍でいながらもモニターを見つめるヴレイは不安で押し潰されそうだったことに、ノアだけは気付いていた。



* * *



作戦会議が区切りになると、ヴレイは個室へ案内された。

一人になると早速、向こうで買った服や祭典の衣装など溜まっていた洗濯物を洗濯機へ放り込んだ。あらためて異国の服を着てこなくて正解だったと思うと、突然懐かしさが込みあがった。

数ヶ月ぶりの制服に袖を通すと気持ちが一気に引き締まった。

着替えながら帰ってきた実感を噛み締めていると、久しぶりに携帯電話が鳴ってヴレイは驚いた。


上部に設置された箱型ブリッジの細い窓からは、さっきほどミーティングをしていた発令所が見下ろせた。抜群な眺めを独り占めできる狭い資料室のような空間は、密会したいカップルには最適の部屋だ。


携帯電話で呼び出してきたのはノアだった。電話ではなく直接部屋に来ればよかったのに、と声を掛けたがノアは返事をしなかった。彼女の真剣な面持ちにヴレイはごくりと生唾を飲み込んだ。

「これが終わったら、また向こうに戻るの?」


少女に戻ったかのようなノアの寂しそうな顔を見て「うん」とは言えなかった。

 つらそうに眉根を寄せるノアをこれ以上寂しがらせない台詞を考えたが、咄嗟に思い付くわけがない。そっとノアの手に触れてぎゅっと握った。

 懐かしいぬくもりが一瞬にして体中を駆け巡った。

 

 今まで押し殺していた寂しさや心細さがよみがえって、高鳴る鼓動に肺が押し潰されそうになった。

 言葉を発することができないでいると、ポツっと一粒、水滴が落ちた。大粒な涙を流すノアを見てヴレイは更に胸が押し潰されそうになった。悔しいほど自分が情けなくて、苛立ちすら感じた。


「ノア、ゴメンって言ってもきっと許してはくれないと思うけど」

「どれだけ心配したと思ってるんだ、メールもろくにくれなかったじゃないか」

「ダグが当たり前にあるわけじゃないんだよ、ごめん、言い訳して」

 肩を震わせて泣くノアを少々強引に抱きしめた。

 長身だが華奢なノアの肩を包み込むことはできる。離れていた時間を埋めるかのように強く抱擁した。

「次にこんなことしてみろ、殴る」

 頬をつねられたように、ヴレイの笑顔は引き攣っていた。


 吐息ほどに小さく呟いたノアの想いをすべて叶えたいと思った。

ずっとこのまま手を離さない、そう誓ってもよかった。

これから見るのは同じ空で、お互い同じ歩幅で歩いて、ノアの笑顔を見られるのなら本望だと思った。でも、言わなければならない。

「向こうにいる仲間と約束したんだ、まだ向こうでやることがあるんだ、だからもう少し待っていてくれないか」

「格好付けるな、これ以上私を惨めにするな」


「本当にごめん、でも向こうに行ってよかった、ずっと探していたものが見つかったんだ。それにやっぱり俺はここに居たいって素直に思った」

 気持ちよく言い切ったが、ノアからの返事はなく、しばらく経ってから胴を抱きしめられた。締め付けが強すぎて一瞬ヴレイは咽てしまった。

「あたしは気が短いぞ」


 ヴレイの肩に頬をすり寄せて、ノアは最愛のぬくもりを全身で感じた。そしてヴレイも今はこの温もりだけを抱いていようと思った。




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