「確かに、軍法評議会へ事を訴えられれば、議会で公正な制裁を下してもらえる。分かった承知しよう。責任持って評議会に伝える、だがルピナ王女をここに残して城へ戻ることはできない、護衛を任されている以上、一緒に城へお戻りくださらないと」
「それはできないわ、私はロマノに行く、ロインが心配なの」
予期していた返答にデュラッセはやはり困った顔を浮かべると、シリウスが即座に挙手した。
「師匠、私が代わりにルピナ王女の護衛をします。不束者ですが弟子からの恩返しだと思ってください」
決然としたシリウスはルピナの隣に立ち並んだ。
「ルピナ王女は多分そう言われるだろうとは思っていた。シリウスの力量は認める、何かあったら承知しないからな、それを肝に銘じて王女を頼む」
師匠と呼ばれたデュラッセは満更その呼ばれ方も悪くないと思ったようで、なにやらご機嫌に鉄色の髪を大きく揺らした。
最後に長く煙を吐いたリウドがルピナとシリウスの肩を叩いた。
「お前たちが行くなら僕も行くしかないだろ。それにザイドが宝珠を運んだんだ、関与しているかもしんねえからな。にしても驚いたぜ、ルピナがあんなに能弁かとは思わなかった」
「私を誰だと思ってんのよ」
「では決まりですね」
三人は陣を組んで視線を交わした。
頷くようにやや俯いたルピナは、首から掛けた金の輪を胸の前でぎゅっと強く握り、雲間からのぞく紺青の空を仰いだ。
「第二艦隊が第一艦隊の電力充電のために、すでに現場の海域に着いているはずだ」
イーグルが事故の経緯と状況を丁寧に説明してくれた。
その他にも自分がいなかった間の仲間の様子やノアの様子を聞いていると、ヴレイは緊急時にもかかわらず皆に会える嬉しさで気分が高揚した。
バジティス・ザリから飛び立って三日、グランドラインとインジョリックサークの境界海域は双方の大気流のぶつかりによって、天候は荒れ模様だった。
ヴレイを乗せた高速船は嵐にも関わらず、濃い霧に包まれた第一戦艦の甲板に無事着艦した。激しい風雨のおかげで懐かしさなど感じている暇もなく、甲板から直接繋がっている通用口から早々と発令所へ急いそいだ。
「バッテリーの充電、換装しました。全エリアの電圧正常値に達しました」
「主動力コンタクト。エンジン異常なし。全システムオールクリア。残存ウイルスは認められません、電磁防壁を再起動します」とコックピットのオペレーターが艦内に放送した。
「ライフルの組み立てはどうなっているの」
「順調です、予定時刻までには組み立てられます」
「後は彼の到着を待つだけですね」
安堵した様子でハリが席から立ち上がると、突然ブリッジの自動ドアが開き、振り向いたハリはそのままの姿勢で立ち尽くした。
「ヴ、ヴレイ艦長……」
ハリの言葉にノアは振り返ると、背筋まで落ちた赤銅色の髪も大きく揺れ動いた。
ヴレイは深呼吸を繰り返し、すぐに言葉が出なかった。
長く落ちた赤銅色の髪は明かりにあたって撫でやかに流れていた。凛とした眉は丹精整った顔を優美に作り、柔らかそうな真紅の唇や適度に膨らみのある薄紅色の頬は、靄の中で映える薔薇の様にその崇高な雰囲気を、前と変わらず漂わせていた。
左胸に豪奢な徽章が付けられた赤い制服に、きちっと身を包んでいるノアの姿にヴレイは見惚れてしまった。
「元気そうね」とノアが先に声を掛けると、「そっちも」と余所余所しく返事をした。
「ヴレイ隊長、お久しぶりです」
「おっ、スピカ、すっかり艦長の椅子が似合うようになったじゃないか」
ブリッジに姿を現したヴレイに、階下にいたオプレーター達は席から立ち上がって注目した。
「そ、そんなことないです、まだまだ皆の足を引っ張るばかりで」
はにかむスピカが腰掛けていた椅子の背もたれに手を突いた、ヴレイはブリッジ全体を眺めた。
「いや、彼は良くやってくれているよ、ヴレイ艦長に負けじとね。おかえりなさい艦長」
「ただいまハリ、俺がいない間スピカの補佐ご苦労、待たせてすまなかった、じゃあ早速だけど状況と作戦を教えてくれ」
ヴレイはノアに視線を向けると、彼女は了承したように強く頷き、説明用として作成した図式を中央モニターに映し出した。
「では順に説明を始める。六日前、スピリッチャー隊は八人乗りの探査専用機で海域の調査に出たところ、何らかの原因でこの海域から姿を消した。遭難した場合、生命維持モードが自動的に作動、船内である程度の生活も出来るようになっているので、五日間は命の保証がある」
「自力で乗り越えるにもそろそろ限界か」
ブリッジにいる全員の顔が険しく曇った。