「何か分かったか」
「せっかちね、ちょっと待ちなさい」
結果を急ぐヴレイに対し、急がされたソラは唇を立てて嫌々キーボードを操作した。
「境界線で浮かぶ艦隊は確かにロマノ国の所有物だったわ。ここの海域はインジョリックの海流とグランドラインの海流、そして双方の対気流がぶつかる一帯だから晴れることは滅多にない。インジョリックの電波を捕まえることも困難だし、非合法な武器を密入するにも、こう悪天候や嵐が続く海域を業と経由させるなんて変だと思ったの」
ソラは椅子から立ち上がって本棚の縁に寄り掛かった。
「驚きました。宮殿付きの諜報部員並みに、いやそれ以上に腕があります、何故そんなことが」
感嘆するシリウスは眉を歪ませた。
「プロだからね。彼女は考古学研究家として修士号と、遺跡ハンターのライセンスを持つ、情報戦は彼女の十八番です」
シェノルが自慢げに言うと、満更でもなさそうなソラは恥ずかし気に彼をにらんでから、寄り掛かっていた本棚から一冊の本を手に取った。
「メリットがないことが分かってから、ロマノ政府の情報ネットを調べていたら気になる話題が挙がったの、ここからは私の興味本意もあったんだけど、「世界の空」って知っているかしら」
ソラの質問に皆は眉根を寄せて、返す言葉を詰まらせた。
「遺跡の類に分類されているんだけど、約三千年前の魔術士が創ったもので、地系能力者の力によって創られたと古書では記述されているわ」
「な、何、そのマジュツシッて」
また非現実的な単語にヴレイの口端が引きつった。日頃子供たちにものを教えるのと同様に、呪文を歌う様な透る声でシェノルが説明した。
「魔術士の力は魔導とはまったくの別物です。魔導は魔族と人間の間から生まれたもの、それに対し魔術は普通の人間が先天的に備わっている能力の事で、「六大」と言う万物を構成する六つの要素のどれかを操る者を魔術士と言います。その六大とは空、水、雷、地、火、風を意味し、総称してアストラルと言い、アストラルの精霊が憑いていると言われています。でも六大の力を持つ者は本当に稀で、しかも地系は特に希少です。確認されているだけでも千年間に十人も満たない」
突飛な現象にヴレイは怪訝な顔をした。
「すごい確率だな。そこまで稀だと自分が魔術士だと知り、能力を呪いたかった奴もいたんだろうな。偏見もあるだろうし」
過去の自分と照らし合わせながら、まるで悲劇の主人公にでもなったかのようなヴレイに陰気臭さを覚えたルピナは二、三回咳払いして、声を張り上げた。
「じゃあそれを創った人はとにかくすごい人だったってことね」
「そうですね、現にこの村に魔術を持つ人はいません」
シェノルはソラに続きを話すよう視線を向けた。
「「世界の空」は太陽光と火山岩で構成され、どんな原理かは解らないけどこの世で唯一、主の思うままに兵器を具現化する、あるいは合成物を創ることのがきる鉱物なの」
「魔術士ならそんな物が作れるってのか」
きょとんと瞬きを繰り返すヴレイは、ダグノートの画面に視線が釘付けになる。
「天体規模として存在しているアストラルは外界から降り注ぐ有害物質を分解し除去するエネルギーを持っているらしいですよ。インジョリックサークではすでにその存在が証明されているそうですが、科学を知らない我々にとってそれは珍現象なんです。君もいい例ですよ。だからそんなものがあっても不思議じゃないと思いませんか」
信ぴょう性がありそうでなさそうな話しに、怪訝するヴレイは「短絡的過ぎじゃないか」と、あまり機嫌が良さそうではない情緒で呟いた。
「今は海溝に封印されているけど、実存するのよ、ロマノの要塞の下にね」
腕を組むソラが片方の口端を上げて気の強そうな笑みを向けた。
「じゃあロマノはそこに石の在りかを探し出したってことね」
ルピナがパチっと指を鳴らした。
「その石を研究している学者達の資料とロマノ要塞艦の位置からして、多分間違いないわ。魔導に関わる者ならどこかで耳にした事はある昔話だし、ちょこっと詳しく調べれば何処にあるのかもすぐ調べられる」
「じゃあ何故今まで誰も石に手を伸ばそうとしなかったんだ」
せっかちな質問に、ソラは「待ちなさいよ」とでも言いたげな視線をヴレイに向けた。
「しなかったんじゃない、できなかったんだろ、グランドラインの技術じゃあ引き上げるにも難しいんだ」
溜息と一緒に呟いたのはドアの縁に立っていたリウドだった。サングラスを取って喉襟に掛ける。