「いいのか、飲みに行くって言わなくて」
「なんでリウドと飲みに行くのに許可が必要なの」
グラスを片手にルピナは眉間にしわを寄せた。不満をぶちまけたそうな口端を尖らせては、グラスにかぶりつく。
「ガキみたいに拗ねんなよ、ヴレイだって分かってると思うぜ」
「分かってるってなにがよ」
「お前があいつに惚れてること」
「はぁっ」
込み合う酒場の中でもルピナがテーブルに叩き落したグラスの音はよく響いていた。
「意味分からないこといわないで、私にはガディルっていう立派な婚約者候補がいるのよ」
「候補ねぇ、でもあれは分かりやす過ぎるぞ、気づいてる? 誘惑される身にもなれよ、彼女持ちかもしんねえぞ」
「え、そうなの」
紺碧の瞳が満月の様に丸々と見開いた。
リウドは吸っていた煙草を根元まで吸いきると、陶器の灰皿に押し当てた。
「知らねえよ、それよりあんな小僧よりさぁ」
グラスを持ちながらリウドはルピナの隣に座ると、涼やかに目尻を細めて肘を突いた。あまりにも近くに座ったので、ルピナは思わず不機嫌そうにリウドを睨みつけた。
「僕と遊んでみる? いい社会勉強になると思うぜ、青臭い小僧なんてほっとけ」
リウドの腕が蛇のようにルピナの肩を抱き寄せた。
「ザイドのことも、お前のこともほっぽりだして見す見す帰るような奴だぜ」
回した手でルピナの髪を撫でた。
しばらく黙っていると、虫でも叩くように手をどけられた。勢い余って腕がルピナの肩から落ちてしまった。
「ヴレイが帰るって決めたのよ、見す見すじゃない、そんな人じゃないわよ、それに」
これ以上にない満面な笑みをつくり、「あんたと遊ぶぐらいなら、ヴレイと遊んだ方が何百倍もマシよ」と言い捨てて、グラスの中の酒を一気に飲み干した。
ルピナの飲みっぷりに圧倒されたリウドは、煙草に火を点けて満足げに煙の味を楽しんでいた。
* * *
翌朝、シリウスが居間で食後の紅茶をいつものように啜っていた。ヴレイもいつもと同じ時間に起きてきた。服に着替えてはいるが、まだ寝癖だらけの黒髪は力なく肩に落ちたままだった。
「シェノルから伝言がありましたよ。お昼頃に神殿に来てほしいそうです」
「わかった、ありがとう」
宿主に礼を言うと、まだ半開きの目を擦りながらヴレイはソファーに深く腰を落とした。
「ソラに調べものを頼んでいる、シリウスも一緒に来るか」
「そうですね、まだ試験の結果も見に行っていませんし、ついでに」
「受かっているといいな」
それから昼近くになってようやくルピナとリウドが起きてきた。
明け方まで露店で飲んでいたらしく、ぼさぼさの頭を気だるそうに掻きながらリウドはテラスで煙草を吹かした。
酔いに任せて腹を割って話せたのか、以前より打ち解けているルピナとリウドの様子を尻目に、ソファーにふんぞり返るヴレイは空になったカップを持って立ち上がった。
「いつの間に飲みに行ってたんだよ」
「お前の許可がいるのか」
ぶっきら棒な返事がテラスから飛んできた。
「聞いただけだろ」
台所にカップを洗いに来たヴレイとすれ違ったルピナは、淹れたコーヒーに視線を落としたままだった。
そのままテラスに出たルピナの背中に文句の一つでも言ってやりたい気分だったが、大人しくカップを洗った。
ヤキモキしながらも苛立つ口調を隠し、二人に神殿へ行くかと訊ねると、まだ眠気眼のリウドは気が向いたら行くと言い、テラスから戻ってきたルピナは一緒に行くと返事をした。
神殿はお昼の祈りに足を運んでくる村人達と観光目当ての見物客でにぎやかだった。シェノルによる聖書の朗読が終わると、資料室へ案内してくれた。
ダグノート越しにソラが快くいらっしゃいと言った。
「グランドラインの電子情報なら、ちょこっと操作すればゴロゴロ出てくるわよ」と得意げにソラは笑みを浮かべた。
「何か分かったか」
「せっかちね、ちょっと待ちなさい」
結果を急ぐヴレイに対し、急がされたソラは唇を立てて嫌々キーボードを操作した。
「ロマノは情報ネットも発達しているから調べやすかったわ、セイヴァが調べている老朽要塞の画像を見つけたの」
手際よく操作すると、ダグノートの画面にそれは映し出された。嵐の影響で画像がひどく歪んでいるし画質も見れたものではないが、目を凝らして観てみれば母艦としても使えそうな軍艦が映っていた。