背後から突き刺さるような視線を感じて、ヴレイは恐々背後を覗くと、ルピナの紺碧の瞳が沸々した怒りを滲ませていたので、生唾を飲み込みながら視線を逸らした。
「帰ってくるの」
ルピナの黄金色の髪が横に流れて乱れる。身体の両側で拳を握り締め、愛嬌のある眉をゆがめていた。
「分からない」
「俺一人の問題ってなによ、あんた一人のことで皆が巻き込まれているのよ、一人の問題なんて言わないでよ」
「ごめん」
「謝らないでよ、どうしてグランドラインにくるのよ馬鹿、帰るぐらいなら来ないでよ」
「馬鹿って」
耳までガンガン響きまくる怒鳴り声を放ったルピナは、来た道を駆け足で引き返していった。
「おいっ」と声をかける間もなくルピナの背中は小さくなった。
「知らねえぞ」
煙草をくわえたリウドは飄々と歩いていってしまい、「ここは出番なし」と背中に書いたデュラッセも行ってしまった。
「私はもう一人で歩けますから、謝りに行った方が」
「なんで俺が、ほっとけ」
ヴレイはルピナが戻っていった石畳の道を横目で睨みつけていた。
宿に着くとシリウスは数時間仮眠を取るというので自室に上がっていった。
ヴレイも自室に戻り寝床に横になると、外の祭り騒ぎが耳に付いて落ち着かなかった。祭りは嫌いじゃなかった。向こうにいた時はイベントがある度に祭り好きのクルーに強引に連れられ、いつの間にかすっかり自分も祭り好きメンバーの仲間入りをしていた。
そんな懐かしい思い出に駆られ、宿から出て盛況する市場を歩いていると、装飾店が軒を連ねた露店街へと迷い込んだ。祭りの雰囲気を肌身で感じながらも、辺りを見回す視線は落ち着かなかった。
「あいつどこ行ったんだ」
ブツブツと文句と言いながら、ふらっと店内を覗いてきた旅人に気づいた店主が、目尻を細めて歩み寄ってきた。
「彼女へのプレゼントかい」
と思わぬことを訊かれヴレイはとっさに首を振った。
「じゃあ自分のために女物選んでるのかい、観光客だろ、精霊祭じゃあ装飾品を女に贈る風習があるんだ、愛があふれる季節だな」
店主は悪巧みでも考え付いたかのような笑みを見せてきた。
「そうなんだ」
苦笑いしたヴレイは唇を噛みながら腕を組んだ。
どこか嬉しそうに品を買っていく客を尻目に、店から立ち去ろうとしたが心なしか後ろ髪を引かれ、装飾品を見ながら店主に尋ねた。
「フレイヤの王女を知っているか」
「ああ、もちろんだ、なんせ我が国王子の婚約者候補だろ。べっぴんさんで剣術が達者と聞いた、城下町に時々見えられるって言うんだ、一度お目に掛かりたいもんだが隣国の一市民には遠いお方だぜ、もしかして彼女がフレイヤ王女だとか」
店主はあえて意地悪そうに覗いてきたので、ヴレイは頬をゆるませ「そうだ」と言ってみた。すると予想通り店主は冗談に捉えて高笑いした。
「何を貰ったら喜ぶかなって」
装飾品に視線を泳がせながら真剣に悩んでいる少年を見て、店主は含み笑いをした。
「簡単さ、お前さんが選ぶものなら、何でも喜ぶさ」
「だといいけど」
内心そこだけは納得いくものがなくて、憮然と笑ってしまった。そんなことはお構いなしに、店主は嬉しそうにヴレイが選ぶ物にあれやこれやと口を挟んで営業を始めたのだった。
* * *