「とりあえず飯に行くか」
この混雑した露店街で、皆でテーブルを囲むことは困難だった。
ルピナはロインと同行し、リウドは単独で食事に行ってしまい、残されたシリウスとヴレイは村の中で最も活気付いている繁華街で食事をすることにした。
「にしても早変わりするもんだな、ついこの間までは閑静な村だったのに」
「そうですねぇ」
路地と繋がっている開放的な店内は観光客でごった返していた。突き出た屋根の下には臨時で用意されたオープンテラスもあったが、そこも満席状態だった。ヴレイは丁度いいタイミングでカップルが退席したテーブルを確保した。
店員が忙しなく店内を駆け回っている。注文を取り、テーブルの片付けをして、料理を運ぶ。誰もが言われるまでもなく自分の仕事をこなしている。店内の厨房からは威勢の良い店員の声や、火の上がる竃で炒め物をする音が聞こえてくる。油が炒められた香ばしいにおいに釣られてヴレイの心は躍る。
注文した料理が大皿に盛られてやってきた。
気の利くシリウスが取り皿に別けながら訊いてきた。
「その衣装、ルピナが選んでくれたんですか」
民族衣装に話題を向けられヴレイは気まずそうに頷いた。
「そんなに恥ずかしがらなくても、目立ちませんよ皆そうなんですから」
「気持ちの問題だよ」
渋々炒め物を頬張るヴレイを見てシリウスは含み笑いをした。
大人気もなく子供のように拗ねた顔をするヴレイを見て、出逢った頃を懐かしく思った。
「実技もがんばれよ」
気を取り直したヴレイが陶器のカップを握ると、叱咤するようにシリウスのカップで音を鳴らした。
他大陸で出会った友人は目尻に笑い皺を刻み「はい」と強く返事をした。
ただでさえ露店や出店で道幅が狭くなっている繁華街は、祭典によって異常なほどの人だかりだ。しばらくそんな町の喧騒に浸っていると、ヴレイが料理に視線を落としたまま真剣に口を開いた。
「シリウスの試験が終わったらみんなに話さなくちゃいけない事があるんだ。こんな混雑した中じゃあゆっくり話せる状態じゃないしな、とりあえず俺達の同盟もここまでってことだ」
それ以上ヴレイは話そうとはしなかった。
ほぼ重要な部分は言っておきながら、それから先をお預けにされたシリウスは釈然としない面持ちで料理を啄ばんだので、ヴレイは「そんなに気にするなよ」と申し訳なさそうに苦笑いした。
午後からの試験は本部の訓練場で行われることになった。特別枠と通常枠で分けられる。
特別枠は一人ずつ能力を見せていくものだった。番号順でもなく覚悟の決めた者から、試験官に見せていくという少し変わったやり方だった。
シリウスと同じように始めから覚悟を決めていた者は躊躇なく列に付いた。
「よし、次だ」
訓練場はドーム型になっていた。二階の観覧席から試験の様子を観ることができる。
誰にでも観える場所でやるというのは次の挑戦者にプレッシャーを掛けるためか、それとも特に意味はないのか、どちらにしろ受験者にとってライバルの技を見られるというのは良い勉強になった。
頭では分かっていてもシリウスは自分の番になると、暗示されるように鼓動が高鳴った。
何度も深呼吸を繰り返し、いつも使っている杖に意識を集中させた。一気に放出させた魔力は大蛇の姿を形作り、半透明な形から徐々に黄金色に色付きそして実体化した。
実物より微かに透き通ってはいるが、手に持った杖を手首で返したり振り上げたりすることによって、自由自在に操れるようだ。
だが大蛇はそう長くは維持されず、小型で細い蛇へと変化していった。息が上がり、目眩を起こしたシリウスは力なく杖を落とすと、幻獣は空気のように消えてしまった。
「なるほど、手から離れると断ち切れるわけか。まだ攻撃性や対応策がなされていない上、長時間の魔力を放出し続けることは難しいようだ。だが生粋ではないにもかかわらず、よくここまで練り込んだものだ。よし終了だ、結果は今日中に掲示される」
何度も深く呼吸を繰り返したシリウスはお辞儀をして会場から出て行った。