「返しに来るのが面倒だからって、小僧が借り馬車を断ったおかげで、このクソ暑い中、クソ重たい荷物をバカみたいに担ぐ破目になったじぇねえか、クソめんどくせぇ」
数歩歩けば文句しか言わない有様だ。散々文句をぶちまけた挙句、しゃべりすぎたリウドは息を切らしていた。
「だって、代車を借りたって、どうせ歩きで帰らなきゃいけないんだ」
大人一人分はすっぽり納まりそうな布袋にサテンがこれでもかというぐらい押し込まれている。その重量は半端なく重い。
それを両手に二袋ずつ、平気な顔をして持って歩くヴレイとルピナを、リウドは眼鏡の向こうから呆れるように見つめていた。腕の筋肉が硬直してしまいそうなほど、荷は重い。
「意外にリウドってひ弱ね」
「残念ながらお前らみたいに怪物並みの力など持ち合わせていないんでね、僕は学者だっ」
「もうすぐ自警団だ。シリウスの様子を見ていこうよ、持とうか」
「結構だ」
年下に持ってもらうぐらいなら、迂回して荷馬車を借りに行きたいほど偏屈な意地を張るリウドは、額にまで皺を寄せ、顎の下まで流れた汗を乱暴に手の甲でふき取った。
「一服してく、先行ってろ」
二人を先に行かせると、サテンの詰まった袋を路上に倒した。その上に腰を下ろし、やっとの思いで煙草を吸い始めた。額から汗が流れ落ちて、リウドの苛立ちは地道に浸透していった。
「暑いっ」
朝方は涼しくていいが、昼間は日陰にいないとジトジト汗が滲み出てくるほど暑い。袖なしのシャツと綿素材のズボンにサンダルという組み合わせを、勧めてくれた宿の亭主に感謝した。
荷を積んだ馬車がリウドを避けながら何台も往来するので、路上の乾いた砂塵が車輪に巻きついて舞い上がる。村の喧騒さを眺めながらリウドは仕事に追われない一時もたまにはいいかと思った。
吸い終わった煙草を踏み消すと、袋を担ぎゆっくりだが自警団本部へ向かった。
* * *
魔導試験は筆記と実技が行われる。
専門の学校に通っている者でさえ、実技が合格する確率は全体の三割だという。だが場所によって試験内容が変わる、バジティス村では幻獣を召喚し支配下にしてしまえば合格となる。特殊な環境、辺境の地という面で優遇されているのだ。
シリウスのような幻獣を召喚できない特別枠の場合は、保持する能力を最大限に見せる必要があるとデュラッセは言った。
そこでデュラッセは、シリウスが自分の杖を魔力で出したり消したりする能力に目を付け、それ一点に集中させた。
「で、シリウスは今どこにいるの」
ルピナがデュラッセに訊ねると、本部内の格技場へ案内してくれた。
覇気のある掛け声が吹き抜け廊下にまでけたたましく響いている。
格闘訓練や筋力トレーニングをしている兵士達の熱気が充満していた。汗を掻いた時のすっぱい臭いが鼻をついて、ルピナは渋い顔を作った。
その中に一人、窓際で手を前に出したまま目を瞑り、黙々と佇んでいるシリウスの姿があった。場違いと言うか、妙にそこだけ空気が静寂していた。
「シリウス、何しているんだ」
今度はヴレイが訊ねた。
「彼は魔力を粒子にまで実体化させようとしているんだ、だからああやって神経を手の先一点に集中させている。完成させるには鋼のような強い精神力がなければ不可能だ」
「でも何故こんなうるさい所でやらせるのよ、普通は静かな所で瞑想するものでしょ」
サテンの詰まった袋の上に腰を下ろすルピナは不思議そうに言った。
「こんなうるさいところだからいいんだ、実戦ではいつどんな時にでも技が使えなければ意味がないからな」
するとようやくリウドが格技場までやってきた。気だるそうにシリウスを見つけると安堵したような溜息を付いて、煙草に火を点けた。
「リウド、煙草吸いすぎじゃない」
ルピナは渋って声を掛けたが、気にする様子もなくリウドは吸い続けた。窓の外へ煙を吐きながら、未だに息が絶え絶えの有様でデュラッセに訊いた。
「で、具体的にシリウスが習得しようとしているのは何だ」
「それはだな」
口端を上げたデュラッセは自慢の作品でも紹介するかのような微笑を見せて答えた。