スープを飲み干したロインは、ヴレイがシルバームで戦艦を停めた光景を思い出した。あんな人間がインジョリックサークには五万といると思うと、ここで対抗意識を燃やしていること自体、意味のあることとは思えなかった。
「はあ、旨かった」
満足げに笑みをこぼし、熱った頬を手で押さえた。水の入ったグラスを頬に当てても熱りは冷めなかった。
それもそのはず、酒場と食堂屋台の集まる市場は酔客や観光客、地元の民衆でごった返し、熱気が渦を巻いていた。特にここの屋台街は件数が半端なく多いため、値段も競って低くする。ロマノ国一の台所として毎晩賑わっている。
「そもそもファビ・ナラードの遺跡発掘調査の裏には宰相が絡んでいるに違いない、でなかったらなぜロマノの研究室になんか移管させる」
ルチルもまだ熱くなっていた。
「ルチルまだ言ってる。そうだとしたらとっくに大陸軍法評議会に目を付けられていてもおかしくないよ。無法な実験を行っている証拠でも上がれば、それこそ全大陸和平評議会に挙げられて、ロマノ王は永遠に失脚だよ」
「だから早く尻尾を捕まえなくてはいけないんだ」
躍起になってスープを飲み干したルチルは水を飲むように酒も飲み干してしまった。
「ところでバジティスのお祭りが終わったら、宝珠を見に行くんでしょ、苦労して父上を説得したんだからさ」
その時のことを思い出したロインは少し眉根を寄せ、小さく溜息をついた。
食事を終えた二人は、首都の空港に泊めていたルチルの専用飛行船で直接バジティス・ザリへ向かうことにした。
毎度のことながらロインは飛行船に乗り込むなり、将来自分が持ちたい飛行船のことを楽しそうに語る。
「にしてもロイン王子は何故そこまでフォーメス政権の裏事業を疑わない、シルバーム前新王を失脚させたのは君なのに、シルバームとロマノが軍拡協定を結んでいるのは知っているだろ」
「そうだけど、ルチルこそ勘ぐり過ぎじゃないの、事実ロマノはここ五十年内戦もないし、規律は厳しいから犯罪だって他国より少ないじゃない、インジョリックとの交易を盛んにさせたのだってロマノなんだ。少なからずはロマノの功績によってグランドラインが潤ったとも言える、それなのに批判ばかりじゃあ、前には進まないよ」
背を向けたままのロインに剣呑な表情を見せたルチルは腕を組んで、眼鏡越の目を細めた。
「ロインらしくない、いつもの君なら自ら内偵に行きそうなところなのに」
「そんなことないよ、シルバームの時はベフェナにもグレイディウルにも難民が押し寄せて大変だったし、あの国には友達がいたから助けたかっただけだよ」
虚ろ気に呟いたロインは狼のような姿をした召喚獣を傍らに連れて、用意された個室に戻っていった。
通路からは月のない夜空を眺めることができた。ガラス窓に映るルチルの眉間に細く皺がより、不安混じる溜息を漏らしてから自室へ戻っていった。