「もう仕事が片付いて来てみれば、ザイドを見習いなさいよ、いい意味でスッパリしてるから、悪く言えば馬鹿ね」
聞き覚えのある声に皆が同時に前庭の方へ視線を向けた。
「手紙が届いてから待っていたよ、ソラ」
シェノルと抱擁を交わし、絹のような黒髪を翻して祭壇の前まで来ると、村人達と同じ様に祈りを捧げた。腕を組んで溜息をついたソラは不機嫌気味にヴレイの前へ歩み寄った。
「今は穏やかに見えるシェノルも私がここに連れて来るまでは、自分の能力に翻弄されていたの、貴方が乱流を起こすようにね。でも彼は自分に課せられた運命を受け入れ、ここに身を置くようになったのよ。真実を知ってもザイドを助けられないと思っているんでしょ、でも何も知らずに彼と再会するのとは違うわ」
「つまり昔話でも救われることはあるってことか、あんたは知ってて言わなかったのか」
床に視線が落ちたままヴレイは問いただした。
「ええ。簡単に教えたら身にならないでしょ。何も知らないで戦うってことはラセツとザリの時と同じなのよ、でも今はそうじゃない、それに「記憶の書」以上の事を知ることが出来たでしょ」
「そういえば「記憶の書」、ここにあるんだろ」
シェノルが祭壇に視線を上げたまま答えた。
「あります、でも今の君に必要があるとは思えない、もう君は真犯人でもあるラセツの弟のことを知った、それ以上は君の判断だ、「記憶の書」は焼却処分する」
双眸を見開いたヴレイだったが、すぐに元の幅に戻った。ソラとシェノルが言っている事が正しかったからだ、何も意見することはなかった。
「戦う戦わないとか、そんなことは関係ない、大昔の奴らのことで、友人をなくしたりしない、そんなアホらしいことで」
太い眉根に力が入り、紫紺色の眼光帯びる瞳は祭壇の石像に向かって怒号していた。
「ザイドはロマノにいるんだな、なら俺もそこへ行く。先に言っておくが戦う為じゃない」
「なら祭典を見てからにしたら、私が薦めるのよ、一週間もすれば精霊祭りが始まるから」
あれほど真剣に語っていたソラが唐突に話題を変えたのでヴレイは呆然としてしまった。
有無を言わさずシェノルが祭りの説明を始めた。しかも陽気に。
「この一年を無事に過ごせた感謝と、これからの一年も平穏に過ごせるように、自然界の精霊達に祈りを捧げる祭典だよ。それに人手も欲しいから君達の宿代を半額にしてあげる変わりに、祭典の準備を手伝ってほしいんだ」
結局それが言いたかったのかとあっ気に捉えてしまった四人は、シェノルの頼みに止む無く承諾することにした。