「時々辛いの、私が小さい頃から傍に居てくれた二人だから」
涙を拭う仕草を見せたので、ヴレイは横目でルピナの様子を窺った。真剣に心配している自分に気付いて、ハッと視線をそらしたが、やっぱり目が離せなかった。
「グリーフが死んでしまったことはとても辛かったけど、もっと辛かったのはルービィが大切に想っていた人を私のせいで死なせてしまったこと」
当時の記憶を思い起こそうと、ルピナが見つめる先は更に遠くなる。
「ルービィが一番悲しいはずなのに、いつまでも泣いていた私を無理やりグリーフの墓前に連れて来て、「命を救ってくれた人に、いつまでも悔やんで泣いているのは失礼よ」って言ってくれたことは今でも鮮明に覚えている」
緋色の鞘をぎゅっと握り、一つ一つの言葉を搾り出すようにして話すルピナは今にも泣き出しそうだったが、すぐ笑みに変わった。
「彼が亡くなってすぐに私の誕生式典があったの。とても自分の誕生日を祝える気にはなれなくて、そんな私にガディルが城下町の鍛冶屋で剣を買ってきてくれたの。この剣で一人前の剣士になれって言ってくれた」
それがその剣かとヴレイは黒い方の柄を見据えた。
「でもしばらく、その剣を持つ自信がなかった。自分一人で強くなっていかなくちゃいけないことに、すごく不安だったから、緋色の剣には彼がいるようで、まだ過去に生きているよな自分を見て見ぬふりをしていたことも知っていたから、断ち切る自信もなかったし」
地元の住民が行きかう路上を眺めながら聞き手になっていたヴレイは、なんと答えて良いか躊躇した。
だが素直に思ったことを口にした。
「友達や姉さんを守れなかった悔しさで仇を追ってきた俺が言うのもなんだけど、何かを成し遂げるためには何かを切り捨ててまで、前に進まなくちゃいけないことだってあると思う。ルピナが故人へ依存する自分を切り捨てて強くなりたいと思うのなら、切り捨てた分強くなれるんじゃないかなって思うよ。ただその人との思い出は大切にしなよ」
ヴレイが言った言葉はまるで自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。だがそれよりなにより、このヴレイが小恥ずかしい真面目顔でいかにも決めましたと言いたげな台詞を投入してきたので、思わず泣き笑いしそうになったルピナは「ありがとう」の一言がやっとの思いで言えた。
もしかしたらずっと彼の隣に居たいのかもしれないと思ったが、情が移っただけだと自分に言い聞かせた。
「とりあえず、ルピナが旅やめなくて良かったよ」
立ち上がり際にぼそっと言われて、聞き漏らしそうになった。でも確かに彼はそう言った。
紅潮した頬をぎこちなく押さえたルピナはヴレイの背中を切なげに見つめながら、嬉しくて何も言えなかった。
離れていくヴレイの後姿を見つめ、紅潮する頬を膝で抱いたまま、ルピナは「ねえ」と呼び止めた声を裏返らせた。
「何?」と返事をして振り向いたヴレイはあからさまに紫紺色の瞳を瞬きさせて驚いていた。
「その、ここにいなさいよ」
顔から火が出そうになったルピナは両膝に顔を埋めてしまった。
戻ってきたヴレイはそんな彼女の姿を見て、照れそうな頬を無理矢理引き締めて、少し間を空けて腰を下ろした。
遥か上空で風が鳴る。
故郷を思い出し、「彼女」を思い出す。青嵐の香りを感じてヴレイは気持ちを確認する。
今はルピナの隣に居てあげたい、素直にそう思いながらもどこかで「彼女」への罪悪感を隠していた。