WildSky第26話 責任の重さ | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

 ヴレイの手は前触れもなく突然止まってしまった。

 何が起きたのかとシリウスとルピナは息を呑んで様子を窺った。

「駄目だ、インジョリックの艦と規格が違う、俺のやり方じゃあ解除できない」

「そんな、どうするのよ」

 ルピナの問いかけにヴレイは困惑したまま答えられなかった。


「大丈夫です、ここからは私達に任せてください」

 一人のオペレーターがヴレイに代わって作業を始めると、傍観していただけのオペレーター達も一斉に作業を始めた。

「この時の為に私達は密かに解除訓練をしてきました」

「私達は新王を最後まで信じていました。ここまで付いてきた私達が新王を助けなければ」


「粒電子パイプのベースフィールドを再設定、照合防壁をアズコード送信後のダグプログラム用に再構築します。貴方が解除コードを聞き出してくれたおかげです、感謝します」

 ヴレイの隣で作業していたオペレーターがキーボードを叩きながら感謝の笑みを見せた。

「エネルギー系統異常なし、コード変換開始されました」

『発射まで、一分前』


「ダグプランへの信号変換率二十パーセントです、暗号変換作業に誤差が生じて、これでは時間までに」

「なら主砲の作業レベルを可能な限りまで下げるんだ、オールグリーンの回線を全てダグプランに接続させろ」

 突然ヴレイが指示を仰ぐとオペレーターはすぐさま対応し問題を処理した。

「粒子砲の出力装置にダグコード、アズの信号を送信、最終停止信号を解読しています」

『発射まで、三十秒前』


「主砲制御コードと照合中、少々時間を要します」

「間に合うの……?」

 剣呑な様子で訊いて来たのはルピナだった。誰もその質問に答えることができず、待たされている時間だけがとてつもなく長く感じた。

 沈黙する司令室は次のアナウンスに騒然とした。

『発射まで、十秒前……、五秒前』


「もう間に合わないわ」

 カウント後、端末モニターに何十桁もの数字が提示された。

「アズの出した解除信号です」

 オペレーターが言い終わる前に、瞬間的に数字を読み取ったヴレイは即座にキーボードを叩いた。

「ゼロ……」

 司令室は水を打ったように静まり返った。


 モニターに表示された文字を見て、オペレーターはしばらく放心してから結果を言った。

「主砲発射は中止されました」

 オペレーター達はお互いに手を叩きあって喜んだ。

 歓声が沸き起こる中で、溜息と一緒に肩をなでおろしたヴレイはイスを半回転させ、ルベンスに席を譲った。

「彼らを止めるのはあんたの役目だろ」


 閑寂と立ち尽くしたルベンスは主砲起動停止のサインを提示しているモニターを茫然と見詰めながら指示した。

「艦をゆっくり前進させろ、彼等の目の前まで接近させるんだ、それと将軍に伝えろ、残っている王軍は現場へ赴き円滑に両軍を撤退させろと」

「了解、執政官」

 何度か深呼吸を繰り返し、数秒間まぶたを閉じてからマイクのスイッチを入れた。


「私は執政官ルベンスだ。王軍に命ずる、直ちに攻撃を停止せよ、直ちに攻撃を停止せよ」

 全体が静まるには時間を要したが、兵士達の動きは波紋のように静まっていった。

「両軍にシルバーム執政官からの最後を勅命を下す、両軍直ちに撤退せよ。この場を借りて、深く陳謝する。内戦を誘発し、国民を危機的状況に追いやったこと、全て私の責任である」

 突然の発表に上空は一時騒然となった。

「私は正当なる裁きを受ける所存である、執政官の職を退官する、正当なる王が即位されるまでは議員に一任する、以上だ」


 静かにマイクのスイッチを切ったルベンスは大きく深呼吸をした。

 一人また一人と兵士達が防具の帽子を脱ぎ執政官に向かって敬礼をした。

 映画のワンシーンのような光景にも気付かず、呆然としたままマイクを見下ろしているルベンスの肩を、ヴレイは叱咤するように叩いてやった。

 我に返ったルベンスはぼんやり回りの光景を見渡すと、皿のような目を向けたまま言葉を失った。


「解除コードを書き込んでおかないと艦の攻撃システムは起動しない、それは本当だ、でも艦長も覚えておかなければ起動しないって文句は嘘だ」

 やっと瞬きをしたルベンスは困惑した顔でヴレイを見上げた。

「いくら高性能なダグでもそんなことできるわけないだろ、賭けてみたんだ、お前がどれだけ非情でへそ曲がりな奴か、でもあんたはちゃんと解除コードを覚えていた、あんたが覚えてなくてもあんたの仲間が停めてくれただろ」


「ずいぶん危険な綱渡りですね」

 ロインの傷口を服の切れ端で止血していたシリウスが他人事のように鼻で笑った。

「やり直したいと思ったわけじゃない、ここまできたからには王座に就くしかない、王座に就けば国の道を正せると思ったが、道を見失っていたのは私だった、ミイラ取りがミイラになった愚かな話だ」


* * *


 元執政官ルベンスの身柄がシルバーム城へ移されてから数日後、ベフェナ城に戻ってきたロインとルピナに処分が言い渡された。

 上部から取り付けられた天蓋付きの席からベフェナ王と王妃が毅然と控えていた。何事にも動じない超然たる両陛下の姿に、処分を受けようとしている二人は恐ろしいほど緊張していた。


「ベフェナ国王子ロイン・ベフェナは王国家法を違憲し、召喚能力を使い無断で他国の内戦を干渉し、多くの犠牲者を出した、これは我国の存亡を危機的状況にも招く行為に相当する。同じくそれに加担したフレイヤ国王女ルピナ・フレイヤもこれに同罪なり、すでにフレイヤ王から処分許可書も受け取っている、因って処分を言い渡す」

 ロインとルピナは生唾を飲み込んだ。


「両者のやったことは重罪だが、その結果一つの国を救った、是英名なり、因って軍法評議会への報告は取り消された、その代償として神殿の煉獄室で聖母の誓いの碑石に碑銘を掘ること、ちなみにこの名誉処分はシルバーム次期執政官レイス陛下から頂戴したものだ、以上勅命である」

 

 ベフェナ王は読み上げた文面を丁寧に丸めると、階段を下りてロインの前まで歩み寄ってきた。

 親子としてお互いに視線を交わしたと同時に、頬を叩く音が響いた。

「馬鹿者がっ、お前は自分のしたことに責任を持てるほどの人間だと思っているのか、一歩間違えば取り返しのつかない事態になるところだったんだぞ、現に多数の死傷者が出ているんだ、安易な考えで戦を起こしては決してしてはならない、もしお前が死んだら、私が黙っていると思うか」

「父上……」

 ロインは打たれた頬を強く押さえ、今にも溢れそうな涙を必死に堪えたが数秒もしないうちに無駄な努力だと気付いた。


「ごめんなさい、父上、母上、ごめんなさいっ」

 ベフェナ王は床に膝を付き、車椅子から降りてきたロインを胸の中で強く抱きしめた。

「親である私が倅の周到な準備に気付かなかったことにも責任がある」

 人の話も聞かず声を上げて号泣している息子の頭をベフェナ王はそっと撫でた。

 まだ小さな背中は必死に自分を役目を探してもがいている最中だった。そうとも知らず、ただロインの気持ちだけを優先させたことにルピナはひどく後悔した。


「ルピナ王女、この度はこのような事態に巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

 膝を折っていたベフェナ王はその場に立ち上がり、深く頭を下げた。恐れ多い姿にルピナは戸惑い、舌の上で言葉が詰まってしまった。

「とんでもありまでん、私も同罪です、私がもっとよく考えていればロイン王子を止めることもできました」

 さらに続きを言いかけたルピナの肩をベフェナ王が大きな手で包み込んだ。


「この馬鹿息子を守ってくださり、心から感謝の意を表します。さぞ怖かっただろ」

「えっ」と顔を上げたルピナの目頭には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

「無事いてくれて何よりだ。フレイヤ王には私から話しておく、説教はお父上から頂戴した方が良いだろう、落ち着くまでここで養生すればいい」

 寛大な笑みを見せるベフェナ王の手は大きくて温かかった。


 張り詰めていた糸がほどけるかのように、安堵感が胸の奥から込み上がった。下唇を噛んでグッと堪えていたが、涙は無情にも大粒の雫となって頬をつたった。

「この期に及んでになってしまうが、この馬鹿息子をこれからもよろしく頼みます」

「いえ、こちらこそ」

 涙でかすんだ声は嬉しさと混じって震えていた。




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