第20話 地下要塞 | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

 絢爛豪華なだだっ広い部屋はルベンスの言ったとおり二人部屋だった。

 天蓋付きの広いベッドに掛け毛布が敷かれている。ご丁寧にもガウンが防寒具として用意されていた。
 大窓の向こうに広がる夜景は額縁の中に描かれた絵画のようだった。


「こんな豪華な部屋で、野郎と二人っきりかよ」
 嫌々と部屋の中に入ったヴレイは机の裏やベッドの下など、隅という隅を調べ始めたので、シリウスは鼻で笑って声を掛けた。


「盗聴器なんてありませんよ、もちろんダグ回線だってありません、スパイにダグノートなんて使われたら、城内を詮索されてしまいますからね」
「ご親切に。あんたもここに入る時、身分証を見せたのか」

「はい、軽い手続きのようなものですよ、あれだけで済むなら誰でも傭兵になれますね」

「冗談だろ。ていうかルベンスの奴、シリウスと組ませて俺を見張るつもりだろ」
「私のこともルベンスは疑っているというのに、そんな無駄な策略を思い付くようなな人ではありませんよ」
 とシリウスは言うが、ヴレイは疑いの目を向けた。


「それより、傭兵統括ってリーダーのことだろ、ザイドって言ってたよな」
 乱暴に鞄をベッドのわきに放り投げたヴレイは全身の力が抜けたように、ベッドに仰向けになった。

「彼も傭兵のようですが統括という階級につけたのは、彼の能力に関係している噂だとか、時間ができたら紹介しますよ。彼がどうかしましたか」

「別に」とだけ言ってヴレイはベッドから起き上がると、大窓から城下町を眺望した。

 星屑を散りばめたような夜景を作り出しているのは、ガラス製の建築物が明かりを反射させているからだ。

「この街を維持するのに自己資産を一番多く投資したのが、実はルベンスなんですよ。感服します」
 独り言のように呟いたシリウスは隣のベッドにその長身を横にすると、分厚い本を開けて静かに読み始めた。


 夜景に背を向けたヴレイは怪訝な面持ちで首をかしげた。
「そんな奴がこの城を本当に崩すのか」
「初耳ですね、もっと詳しく聞かせてください、君の探し物について」
 開いたばかりの本から視線を上げたシリウスは細い目をさらに細くした。


「あいつは「聖冠」を創るためにこの城を真っ二つにしたいらしい、こんなでかい建造物を破壊するには戦艦並の威力を持つものじゃないと無理だ、時間を掛けて解体するなら話は別だけど」
「なるほどその話が本当なら、連合軍に責められる前に城を崩壊させたいわけですね、軍拡の理由もその説なら利に適っていますね。で戦艦とは動く要塞のことですか?」

「そうだ、何処にあるのか知ってるのか?」
 
ベッドに膝を突いて身を乗り出したヴレイは、本を閉じてベッドから起き上がったシリウスを目で追いながら答えを待った。


「それに答える前に、私達は手を組んだのですから、行動に移す時は私も一緒です。だから足を引っ張ることだけはしないでくださいね」
「俺が特攻だって言ってただろ、それに逆のパターンも大いにありえるだろ」


 呆れ返るヴレイは溜息を付きながらまたベッドに崩れた。敵なのか見方なのかよく分からない相棒に振り回されっぱなしで、気が滅入ってしまいそうだった。
 
 組んだばかりの相方はなにやら双眼鏡を取り出して外を眺め始めた。
 そんな彼の様子を見ながらぽつりとヴレイは言った。
「一応礼を言う、あんたのおかげで城に潜入できた」
 手助けしてくれたことに気付かず睨んでしまったことは悪いと思ったが、謝るのは面倒くさかった。


 少々沈黙が流れた後、突然シリウスは双眼鏡を覗いたままこちらを向いた。
「私と君が顔見知りだっただけです」
「それだけで、協力したのか」
「まあ、それだけでも十分ですよ」

「なんだよそれ」と言いたかったが、双眼鏡を覗いたままの格好が可笑しくてにやけてしまった。

「それより反乱軍がノイゼストに集まっているという噂を耳にしまして、ちょうどここからノイゼストが遠目に見えるのですが、やはり情報は正しかったようですね、兵が集まっています」
 双眼鏡を目から放すとシリウスは再び窓の外を見た。
 
 まさかあの二人なのかと思ったヴレイは上半身だけ起こして、窓の外へ目を凝らした。
 部屋に入ってから落ち着きのない彼を視界の隅で見張っていたシリウスが目ざとく訊ねてきた。
「何か心当たりでもあるんですか」

「いや、それで戦艦はあるのか? ダグ回線がないから調べることもできない」

 何気なくヴレイは話題をそらした。

「実のところ私にもよく分かりません、要塞には興味がなかったので」

 他人行儀のように淡白に笑むと、「でも、城内が把握できればいいのですから」と、意味不明な言葉を発したシリウスは持っていた双眼鏡を床に置いた。
 
 何も持っていない状態になったはずのシリウスの手に、何処からともなく現れた金メッキの鉄棒が水飴のようにうねりながら形を成型し、実体化したのだ。
 一瞬何が起きたのか分からなかったヴレイは理解できるまで何度も瞬きした。


 ずいぶん長い鉄棒は高熱で溶かしたかのように捻じ曲げられ、先端には巨大な水晶が嵌め込まれている。その杖を強く握り、一つ深呼吸をすると、シリウスは低い声で何語か分からない言葉で唱え始めた。


 双眼鏡を中心に床が乳白色にぼんやり光始めた、その光は意思を持つかのように動き出すと、床に絵を描いたのだ。
「唱えた本人でなければ理解できませんが、これは城内の地図です。双眼鏡がのぞいてくれたんです」

「覗いてって、どうやってそんなことが、手品じゃないよな」

「時々面白いこと言いますね、私は魔導士です」
「マドウシって?」
 ヴレイは眉根をゆがめた。

「魔導士を見たのは初めてですか」
「ああ、インジョリックにはそういうものはなかったから」

「機械文明が発達した大陸に魔導は浸透しませんでしたからね。ここはやはあり手を組んでいるのですから貴方の能力も知っておかなくては、シルバームの護衛獣を倒したのもその力なんですよね」


 自然ながらも完全に見抜いてくる相方の態度にヴレイは溜息をついた。
「まあ、俺のは魔導じゃなくて、妖力って言うらしい。それより、その地図読めるんだろうな」
「え、はい……」
 唐突に話題を変えられてしまったのでシリウスはヴレイを疑問視したが、特に今は詮索しなかった。


「方角は東ですね、そこに棟が群がっているはずですそこから侵入しましょう。警戒するに超したことありませんが、夜間の方が人通りは少ないはずです」
「じゃあ早速案内してくれ」


 城内に大規模な要塞を持つ城は珍しいという。そういった国は君主が主導する軍事政権力が強いそうだ。

「シルバーム城はグランドラインの中でも指折りに巨大な城ですが、大陸最大のものは城そのものが一つの街になっているそうです」

 漠然とそのイメージを頭の中に描いてもヴレイにはピンとくる映像が思いつかなかった。


 目的地に繋がっている通路は幾つかあるとシリウスは言った。途中までは専用通路で行けるが、直接立ち入るのは目立ちすぎると言うので、裏通路を行くことにした。

 双眼鏡が覗いてくれたおかげと言われると、何か変な感じだった。ダクトのような隠し通路を進んでいくと、広い吹き抜けの空間に突き当たった。

 華やかな宮殿の真下に位置する広大な地下施設は、まるでセイヴァのドックを思い出させた。

 造船工場は勿論のこと、極秘裏に建造されていたにしては大掛かりな工業コロニーとなっていた。
 上の城が表の顔なら地下要塞は裏の顔といったところだ。


「ここまでくるにかなりの軍資金が必要だったでしょう。街の維持費と称してこちらに回った金もありそうですね、何よりこの造船材料をどこから買い集めたんでしょうか」
「同じように軍拡している国々からだろ」
 平然と私見的な意見を述べるシリウスに対して、ヴレイは眼下に見えものに釘付けになっていた。


 彼等が見下ろす先には巨大な軍艦が静かに眠っていた。
 セイヴァで見慣れた船とはまったく形が異なっている。基礎外観は飛空挺そのものだった。グランドライン独特の奇抜さはあるが、やはり要塞と言うより船でしかない、というのがヴレイから見た印象だった。


「総勢二百名の駆逐艦ってところだな。これなら主砲もあるだろうし、何よりこれほどの規模にまで膨らんでいるってことは、ここだけじゃないんだろうな軍艦を所有している国は」
 眼下の景色を悠々と見物するヴレイはいい情報を入手できた喜びで、その至言は心なしか上機嫌だった。


 面の兵の数より人影は少ない。天井の明かりも今は消灯され、下の方だけが作業できる程度に灯されていた。
「これだけの規模だ人員もそれなりに要るはずだ」
「それで賞金首を傭兵にして、連合軍を片付ける雑用役に回していたんですね。王軍だけではいざという時の兵力を温存できなくなっていたんでしょう」


「なるほど」と言いながらヴレイはいざこれが動かされた時の事を考え、ふとあの二人の顔を思い出した。
 何故今彼らのことを思い出したのかと不思議に思ったが、やはり二人が巻き込まれた時は助けたいと思う気持ちがあったからだった。


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