「すでに連合軍の諸侯らが見えられています、首都からほど近い西部、北部、南部を統括している方々です」
庭園の一角に設けられたパーゴラ、藤棚とも言われる緑廊にはつる性の藤が勢いよく絡まっていた。四方には緑陰樹が植えられているので夏でも涼しい。
向かいのソファーに凛然と並ぶリーダー達は、写景的な自然形式の庭園では彼等の威圧感が強烈に引き立っていた。
豪奢な城壁に掘られた石像が動き出してきたきたような風貌だった。みなぎる闘志を瞳に宿し、少し錆びついた鎧が彼等の体躯をさらに豪快に見せている。
屋敷の主レイスは従者から受け取った地図を、大理石のテーブルに広げた。
「ご足労感謝いたします、諸侯の方々。ご紹介に預かりました、ロイン・ノイレイザーです」
諸侯達の御前で深々と頭を下げるロイン。
「早速ですが、西部、北部、南部と各州ごと何所に軍勢を配しているのかと、その数を教えてください」
十四歳そこそこの少年に訊かれ、少々怪訝しながらも諸侯の一人が地図にペンを走らせた。
「西部は一万、北部三万、南部一万五千でそれぞれ州の中心市街圏内だ。首都リベロットへ軍勢を運ぶにしても三週間はかかる、その間に新王軍と鉢合わせになったら無事に着けるかも怪しい」
ペンを地図上に転げると、太い眉根を寄せて続きを言った。
「王都にはびこっている新王軍はおよそ一万、首都圏内の連合兵はノイゼストという町にいるが、その周辺地域の兵と合わせても五千弱しかいない、長引く内戦に兵力は疲弊してしまっている」
諸侯が黙るとレイスが剣呑な表情を浮かべて口を開いた。
「これ以上紛争を続けたくないのは国民も同じです、兵力どころか国自体が崩壊してしまう」
「僕だってこれ以上戦ってほしくない、だからこれで終わってほしいんです。そこで僕の精鋭部隊を使ってほしいんです、数は六百あります」
全員、目を皿にしてロインを注目した。
「お前さんが軍勢を持っているだと、それが真実であっても何故子供が」
「何者なんだ君は」
諸侯達はそろって顔をゆがませた。
「実はこの子、いやこの方はベフェナの」とレイスが言い掛けると、咄嗟にロインがソファーから立ち上がった。
「僕はベフェナの召喚士です。共にシルバームを助けたい、見ての通りただの子供です、でも僕にも協力させてください、たったの六百じゃあ軍の足しになるか分からないけど」
あまりにも昂然とした発言だったので、レイスは目を丸くしたまま歓喜してしまい、言葉を発することが出来なかった。
「僕の召喚獣を使って空から城を制圧しようと思う、そこで首都圏に結集している連合軍だけでも一箇所に集めたい。新王軍はこちらが大人しくしている限り力を抜いている、そこを狙うんです、不意打ち攻撃ならさほど数も必要じゃないはずだ」
「お、おい召喚士って、魔界から獣を召喚すると言う、実存が少ないあの」
「他国の為に、連合軍に召喚獣を与えるというのか」
諸侯達の顔はまるで狐にでもつままれているような表情を並べている。
信用されないことはロインも初めから分かっていたが、自分の決意を訴えるしか方法がなかった。
「僕が英雄ぶっているのはわかります、我がままだと思います、それでも僕に力を貸してください」
ロインは床にひざを突き、深々と頭を下げた。
その姿にレイスは慌ててロインを起こした。ひざに付いた砂利を払い落としながらレイスは声を潜めた。
「恐れ多いですよ、そのような姿を見せないでください」
ソファーに座らされたロインを見ながら、諸侯達は険しい趣で質問をしてきた。
「城を攻めるとして、そこから先の策はあるのかい? 占拠だけでは落とせない、新王軍が騒ぎに気付いて援軍を送り込んできたら我々はひとたまりもない」
「その通りです、援軍が来る前に城を落とす必要があります、飛獣などの対空兵力はありますか?」
「年中待機している数はざっと三百ってところだ、それ以上はまだ兵力にもならん」
「その三百と僕の召喚獣合わせて九百を空から城を占拠させます。その際僕はルベンスの元に行きます、そしてルベンスを失脚させます」
唐突な発言に諸侯達は騒然とした。
「ルベンスの元へだと、何所にいるかも分からんし、そもそも話し合いで失脚させる暇がどこにある」
「大丈夫です、僕にやらせてください、攻め入る際の人選と戦略はプロにお任せします」
揺るぎない威光を放つ深緑色の瞳に感服させられた諸侯達は、憮然に笑うしかなかった。
「子供を戦に参加させるのは心苦しいが、助力を必要としているのもまた事実、お前さんは俺達が死守する、絶対に死なせない」
「有難う御座います、でも護衛はもういるんです、貴方達にはできるだけ民兵を守ってほしい、僕も犠牲を増やさないためにも全力を尽くします」
拳を握り締めたロインは少なからずもヴレイの動向にも期待していた。
「これ以降は連絡を待ってください、集まった兵は作戦開始前までにノイゼストの野外劇場に集めてください、あそこなら千人は入る規模ですよね、僕もそこに行きます」
* * *
しばらく木々が風に揺れ、葉と葉が擦れあう音だけが響いていた。
覚悟は彼等が去った後にやってきた。ずしりと重くのしかかったプレッシャーは自ら招き入れたのだと分かってはいたが、ロインは不安に駆られていた。
諸侯達を見送った後、ロインは庭先で巨大な鳥を召喚した。
レイスは彼の手を取って、召喚鳥の背に乗るのを手伝ってやりながら、至極申し訳なさそうな顔で見上げた。
「ロイン王子、私が王になれる器量とは思えません、ましてや無事に王座に登極できるとも限りませんし、民もすぐには受け入れないでしょう。それでも貴方は誰に何を言われても、決意を揺るがすことはないと分かっています。聡明で賢いロイン王子が決断したことなら、お止めしません、ご助力お借りします」
頭を垂れたレイスを見てから、ロインはシルバーム城がある方角に鋭い視線を向けた。
「僕の父上は僕の友達をすごく嫌うんだ。シルバームを救って召喚獣を認めてもらおうとする考えはシルバームを利用することになる、結局自分のためなんだ」
眉間に力が入ったロインは眩しそうに目尻を細めた。
「だとしても僕は最後まで皆を裏切らないし、皆を救いたい気持ちも変わらない。シルバーム行政にも相談せずに、強引に推し進めてしまって、これでもし失敗するようなことがあったら……」
言葉を止めたロインの目元には溢れんばかりの涙がたまった。
彼の決意をまざまざと見せ付けられ、レイスは闘志を奮い立たせた。決然と眉根を寄せ、励ますようにロインの手を強く握った。
「政府には王制復活のことは伏せたほうが良いです、作戦がルベンスの耳に入ったら、連合軍をつぶしにかかるでしょう、私は君を信じます、私達王族分家の末裔がシルバームを再生させます」
震える手でロインはレイスの手を握り返した。
「レイスさん、僕の我がままを聞いてくれて有り難う御座います」
ヒュッと指笛を鳴らすと、召喚鳥はふわっと宙に舞い上がった。長い尾が七色に艶めいて光を鈍く反射させる。
堂々となびく赤銅の髪は霧の中でもかすむことなく、遠くまでその色を明瞭に残していた。