第12話 波と舞う | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

「波乗り」というものが気になったヴレイはカフェを離れて様子を見に行くと、そのまま人の波に押されて列についてしまった。物珍しさもあり船賃の元を取るつもりでそのまま受付まで行ってみた。


「スカイフィッシュとはプレイヤーがケーブルと繋がったグリップを握り、脚に装着したボードを使って波を滑ることです。どのケーブルで滑りますか?」


 訊かれてヴレイは隣の受付を見た。


「中央のロングで」

 隣で受付をしていた人と同じことを言ってみた。


「エントリーを受け付けました。このプレートを左胸にお付けください。呼ばれるまで観覧バルコニーで待機していてください、呼ばれましたら一階の波乗り入場口の通路を下りて来てください」

「は、はい」

 簡単に説明されただけではどんな競技か分からなかった。

 

 指示された観覧バルコニーとやらは船尾から突き出た船橋のことを指していた。

 船橋への通路が開放され観客席に人が集まってきた。眩しいくらいの紺碧の青と、照りつける日差しが観客達のテンションを盛り上げる。

 海上を見ている限り穏やかとは言えない波だ。船体が時々大きく傾き、波が強く船底にぶつかってくる。


 観客席に着いた頃、再び汽笛が鳴り響いた。

「間もなくスカイフィッシュが始まります。呼ばれた方は入場ゲートへお越しください」


 一番低い場所にある船尾のデッキから三人のプレイヤーが出てきた。

 足には円盤型のボードが取り付けられている。プレイヤー達は軽く手を上げて、観客席を歓声で沸かせると、ケーブルの先に付いたグリップを握って荒波の中へ飛び出した。


 左右に一人ずつ、そして中央のケーブルに一人のプレイヤーが海面を切って滑る。

 高波の頂上で派手な技を繰り出すと、再び観客席から歓声が沸き起こった。波飛沫が太陽の光を反射し、観客席にも容赦なく潮が飛び散ってくる。


 立見席から観覧していたヴレイは思わず息をのんだ。

 自分の番が呼ばれるまで少し緊張しながら見入っていると、中央を滑っていたプレイヤーが転倒した。

 

 リタイヤしたプレイヤーは即座に船へ戻され、新たに呼ばれたプレイヤーが水面を滑って登場した。女性が出てくることはよくあることだが、ヴレイから見てそのプレイヤーは自分と同い年ぐらいの少女だった。


  黄金色の短い髪がなびくたびに輝き、銅製の胸当てと刺繍が派手に施されたレースの腰巻が印象的だった。

 船はわざと高い波の上を突き進み、プレイヤー達は引っ張られるままに真正面から荒波を受けた。

 それでも彼女はワイヤーの先で華麗に舞っていた。


 派手な技を見せるわけでもなく、彼女は波の上で花のように踊っていた。目を奪われたヴレイは言葉もなく見惚れてしまった。


 彼女の波乗りが終わると自分の番号が呼ばれた。波乗り用のデッキに着くと潮が容赦なく吹き付けていた。

 波飛沫を浴びながら、足にボードを装着し係員の誘導するままヴレイは荒波へと飛び出した。 


 後頭部で一つに束ねた漆黒の髪が乱れて舞った。

 波をボードで蹴って大きくジャンプし宙返りを見せたりすると、おもしろいぐらいに観客の歓声がこだました。ヴレイがひと際高い波の頂上から大きく飛び降りると、観客席は最高潮に盛り上がった。


 濡れた髪をタオルで拭きながらルピナはその光景を悔しそうに睨んでいた。

「あいつすごいよな」

 横でロインがルピナの剣を大事そうに抱えながら感嘆した。


 ロインの視線を釘付けにするのは黒髪を一つに束ねた少年だった。今までのプレイヤー達とは明らかに異質的で、それでいて挑戦的な技を繰り出し観客を魅了していた。

「あ、あいつ」


 突然ルピナが声を上げ、隣にいたロインがビクッと目を向けた。

「ど、どうしたのさ」

「真ん中のあいつ、どっかで見たことあると思ったのよ、ミラードルで私が追いかけてた泥棒をあいつが掴み投げしたのよ」

「え、どういうこと、顔見知り?」


「泥棒を捕まえた後あいつに任せちゃったから、その後のことは知らないけどね」

「そうなんだ、手柄だったのに」

「私の身分がバレたら面倒でしょ、そもそも捕まえたのはあいつよ、じゃシャワー浴びてくる」

 ルピナはロインに預けていた剣を受け取った。


「観ないの?」

「だってあいつ私よりすごくないもの」



 波乗りが終わった後、ヴレイは個室に戻ってシャワーを浴びた。着替えてから部屋を出ると、小腹を満たそうとラウンジへ戻ってきた。

 カフェのメニューボードに載っていた、アイスクリームののった蒸しケーキの写真に見とれてなら列についていると、前方から聞き覚えのある声が響いてきた。


「蒸しケーキアイス売り切れなの」

「すみません、生産が追いつかず二時間ほどお待ちいただいているところです」

「じゃあいいわよ、オレンジジュース二つ」


 ジュースを持って列の外に出てきた少女の髪は艶のある黄金色だった。波の上で舞っている少女と、前にいた町で泥棒を追いかけていた少女の姿が重なって、思わず「あっ」と声を上げてしまった。


 苛立った少女を迎えに来たのは、十三、四歳の赤毛の少年だった。彼女に気を遣いながら苦笑いしていた少年がこちらに気付いた。

「あっ、波乗りが上手かったお兄さん」

 そして自動的に少女もこちらを見て「あっ」と声を上げた。


「君の波乗り見たよ、すごかったよ、プロの波乗りなの? 僕はロイン、スカイフィッシュのファンなんだ」

 ロインは深緑色の大きな瞳を輝かせ、興味津々にヴレイを観察する。


「俺はヴレイ、波乗りは初めてだ」

「初めてであんなにかっこよく滑れるなんて、すごいよ。彼女はルピナ」

「あっちにも似たような競技があったから」

「あっち?」ロインとルピナが同時に言った。


 童顔で人懐っこいロインはきょとんとした顔でヴレイを見上げるだけだが、隣でジュースを飲み干していたルピナが目尻を細めて凝視してきた。

「こっちの人じゃないの?」


 少々遠慮がちにヴレイの容姿を窺い、最後に紫紺色の瞳を見つめるルピナ。確かに彼の装いは馴染みのない異文化を思わせた。


 ルピナが返事を待っていると、ヴレイはあの時のことを思い出して声を上げた。

「お前あの時面倒くさいこと俺に押し付けただろ、あの後何時間も自警団で引きとめられたんだぞ」

 以前ルピナとは馬車で乗り合わせていたので顔見知りではあったが、恩を婀娜で返されては腹の虫も収まらなかった。


 ラブラリンの首都に着いてから、宿探しのついでに市場を散策していると、彼女が窃盗犯を追い駆けていたのだ。現場に居合わせたヴレイが、逃げて来た窃盗犯を捕まえるとそのまま背負い投げてしまった。

 自警団が駆けつけて来た時には既にルピナは姿を消していたので、ヴレイが対応する羽目になってしまったのだ。


「今はその話じゃなくて、グランドラインの人間じゃないのって私が訊いてるでしょ」

「インジョリックサークだ、面倒を俺に押し付けたあんたは何者だ」

「別にどうでもいいでしょ、あの時のことは悪かったわよ」

 言葉を吐き捨てたルピナは乱暴にラウンジから出て行った。


 取り残されたヴレイはあまりの見捨てられ様にますます苛立った。

「ルピナは剣士なんだ、類まれない剣舞の持ち主なんだけど少し傲慢なところがあって、大目に見てやって、悪い娘じゃないんだ」

 ロインは利発で賢い子供なんだと印象付けられてはいたが、ルピナをフォローする彼の方が自分より年上ではないかと錯覚してしまいそうなほどだ。


 しつこくルピナの後は追わず、二人で展望甲板にやってくると、そこからもスカイフィッシュを見ることができた。   競技が終了してなお、自由に波乗りをする者達が競って海面を滑っていた。


 その中に一人、目立って明るい髪の少女が滑り出した。黄金色の髪を翻し、自由気ままに滑っている。今度は背に剣を背負ったまま滑っていた。塩水で錆びないか疑問だ。


 さっさとこの二人と別れようと思っていたその時、耳が痛くなるような甲高い鳴き声が轟いてヴレイとロインは同時に空を見上げた。

 悠然と上空を飛来するそれは日差しをさえぎり、甲板に大きな影を落とした。


 逆光で目を細めるヴレイは初めて見た奇異の生き物に、口を開けたまま愕然としてしまった。

「なんだ、あれは」



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