第6話 初陣 | 虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

虹のふもとに眠る宝は何だと思う?

小説家デビューを目指し地道に執筆活動を続けるyuuma(立花 佑)の日記です。2017年からWebライター始めました&杉山貢大農園のお茶ネット販売&ハーブ畑作り&アルファポリスにて小説掲載中〜!

前回の終わり方:何事もなく平和な日常に敵艦が責めてきました。(ザックシ言ってしまえば)


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「真っ昼間からドンパチとは、おっかないねぇ」

「ジーベックさん、非常時に昼も夜もありませんよ。軍人である者いつでも戦える覚悟を持たないと」

 二人は艦内の発令所に繋がっている通路を走っていた。


「ハリ、そんなこと言ってたらいつか無駄死にするぞ。そんなら昼夜問わずビビってるスピカはどうなる、初陣で皆まとめてあの世逝きだぜ。あれで艦長候補生とは、見上げたもんだ」

「そんなこと言っちゃかわいそうですよ、まだ慣れないだけですよ」


「ここ最近年齢が下がったと思わないか。ヴレイにいたっては十七歳のガキだ」

「でもそれは実力があるから認められているんですよ」


 そんなことを話しているうちに二人は滑り込むように発令室にたどり着いた。

 だがすでに最高責任者の席にはヴレイの姿があって、二人は自然に背筋が伸びた。


「誰かと思えば、これでも俺達急いで来たつもりだったが」

 金髪を肩に落としたジーベックは頭をかきながら自席についた。

「さすが艦長、僕も見習います」

 ハリは大きく会釈をして自席についた。


 司令塔として、床が丸くくぼんだデスクが高台のブリッジに三席設けられている。前半分がコンピューター操作するためのキーボードになっている。

 そのブリッジの両側には階下へ通じる階段があり、そこはオペレーター専用のブリッジになっている。


「艦長、境界域に動力反応を感知、駆逐艦クラスです」

 右後ろのデスクに着いていたハリが声を張り上げて言った。


「スピカを呼んで来る、準備ができ次第艦を発進させろ」

 デスクから立ち上がったヴレイを、あきれながらジーベックが意見した。

「待てよ艦長、スピカはまだ候補生だ、実戦はまだ無理だろ。第一さっきの戦闘結果見ただろ」


「候補生が実戦なくして艦長になれるはずがない、俺だってそうだった。俺がバックアップする、防衛システムのバックフィールドの誤差修正を急げ、それからディウアースの最終確認を整備班班長に指示しろ、スピリッチャー隊には待機命令だ」

 苛立ち混じりの指示を仰いだヴレイはブリッジから出て行ってしまった。


「スピカみたいな腰抜けを後輩に持って、イライラしちゃってるのかね」

 指先で首筋をかきながらジーベックは他人事のように細く笑った。


「艦長がそんなこと思うわけないじゃないですか、それよりスピカ君を呼びに行くなら艦内放送で呼んだ方が早かったんじゃないのかな」

 大きな目を不思議そうに瞬きするハリに対し、気難しい顔するジーベックは頭をかきながら鼻で笑って見せた。

「腰抜けのスピカが自分から来ると思うか、待っている間に終わっちまうよ」


 

 案の定、艦内放送どころか人の手でも危うかった。

「ええっ、ちょ、ちょっと待ってください。僕がやるんですか、そ、そんな絶対無理ですよ、あの成績を艦長も見ていたじゃないですか」


 阿鼻叫喚するスピカの腕を強引にひっぱり、無理矢理にでもブリッジへの廊下を歩ませるが、華奢な体のどこにそんな力があるのだろうかと不思議でならないほど、もの凄い力で行くのを拒んでいる。


「滑走路位置に固定完了、総員発進に備えてください、地下ケージから発進します」

 艦内放送が流れた直後、ヴレイはスピカの手を取って近くの手すりに掴ませた。

 強い推進力で体が圧せられたがすぐ元に戻った。


「ぼ、僕では無理ですよ。それに今シェルトリー二佐から教えてもらったことをノートに整理していたんですよ、まだ続きが……」


 小さく開かれた口の隙間から震えた声を出すスピカに、いい加減苛立ちを覚えたヴレイは我を忘れて怒鳴った。

「今はそれどころじゃないだろ。俺がフォローするから、とにかくブリッジに来て俺のデスクに座るんだ、来ないなら命令違反とみなし艦から降ろすぞ」


 昂然と怒鳴るヴレイの気迫は、息が止まってしまうかと思うぐらいにスピカは全身がすくみ上がってしまった。


「誰だって怖い、でも自分一人で戦うわけじゃない、一人じゃないから空に行ける、一人じゃないから艦に乗れる、少なくとも俺はそうだ」


* * *

 

「第一艦隊発進しました、続いて第二艦隊発進しました」

「敵艦の分析結果は」


 ノアが訊ねると、広いモニターを持つデスクで作業していた女性オペレーターが即座に答えた。

「まだデータ不足ですが、ペクト国連軍の旧第一戦艦です」


「ペクトですって、あそこにはギウル大佐がいるのよ、エルゼール国出身の元統合軍中佐。次のペクト後継者は彼だと言われているほどの実力者だ」

「よく知っているな、シェルトリー二佐」


「バンディス一佐。彼の目的は何でしょうか」

 セイヴァ本部の発令所、作戦局一課のブリッジに入ってきたバンディスは中央モニターに映る空域図を見上げると、太い眉根を寄せて答えた。

「どうやら水面下で再起動の準備をしていたのだろうな。前回は決起の映像をギウルが直接配信してきたほどだ」


「ではギウル大佐がその意思を受け継いだってことことですか。でも第二次を起こさないために契約が組まれたばかりなのに」


 訝しげなノアの頭上から、これ以上ない含み笑いを見せていたのは、階上のブリッジで佇むスカイ副指令だった。深く刻まれた口元のしわをゆっくり動かしながら、淡々と語りだした。

「エルゼール国の旧第一戦艦に対し使用禁止兵器を使い、あっけなく掌握してしまったのはうちの前代第一艦長だからな。さぞかし許せなかったのだろう。人工知能搭載艦を密かに研究していたエルゼールは、我々をにパンドラの箱の情報だけを保管させ、軍法違反の濡れ衣を着せたのだから、前代が義憤に駆られるのも無理はない」


「今回も宣戦布告なら新たな連合軍を呼ぶしかない。評議会に即時報告を要求します」

 階上に強く進言したノアの肩をバンディスが掴んで止めた。

「それは最終手段にとっておくことだ。奴らの目的は妖源ダグシステムの占拠とも考えられる、無人艦に導入すれば高度な戦闘が可能になるからな、まぁ軍法違反にはなるがな」


「向こうは完全に手を引いたはずでは」

「書類上ではな。だが虎視眈々と狙っていたのは事実だったようだ」


 それを聞いたノアは下唇を噛んで眉間にしわを寄せた。

「これは明らかに敵対行動です」


「評議会が干与する前に税金が消費されそうだな、スピリッチャーがなかったらこうはいかんな」


 挑戦的な笑みをバンディスに向けたノアは、前方の中央モニターを見上げて勇ましく指示を仰いだ。

「第一、第二艦隊は送信した座標に戦闘配置。第三、第四艦隊はバックアップへ。全艦隊は電子防壁を通常装備すること、緊急回避に備え対空迎撃を三十パーセント稼動開始」


 呼吸を整えたノアはヒールの音を鳴らして振り返った。

「リルディクス総司令、作戦指揮は私が執ります」

 まだ二十代半ばをこえた女性だが指揮官としては男に勝る勢いと覇気ある。


 ノアの目線の先には、最高司令官の席が設けられたブリッジがあった。

 司令官の隣には常にスカイ副指令が凛と控えている。

 最上階のオペレーター達はデータ処理に追われて慌しかった。沈着さを常に備えた司令官は書類に目を通しながらオペレーターに何か指示を出していた。


 黒いレンズの眼鏡をかけていたので視線がどこを向いているのか分らなかったが、彼の威圧感は明らかにその眼鏡で増幅されていた。二、三日剃っていないのか顎の回りが無精ひげになっている。


 そうしてようやく階下のブリッジを見下ろした。

「連合指令議会の返答を待ってはいるが、悠長と待っている時間はない、作戦があるのなら任せよう」

「はいっ」



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