弟と姉。
産まれた時に決まったはずの立場が、逆になった出来事があった

赤いラジカセ
母の化粧道具と並んで、それは化粧机に置かれていた

母は、とにかく音楽が好きな人だった
いつどんな時でも、そのラジカセから音楽が流れていた

テレサ・テン、五輪真弓
私が年齢の割に、この辺りの歌を完璧に歌えるのは
間違いなく、母の影響だった

小学生高学年だった私は
その日、友達から、カセットテープを借りていた
ちょうど、MDが出た頃だったけど
私達はまだ、そんな物を持ってはいなかった

カセットからカセットへのダビング
左に音源が入ったカセットを入れ、右に空のカセットを入れて
再生と録音ボタンを同時に押す

しばらくすると
右のカセットから、キュルキュルキュルキュル
という嫌な音がした

慌てて停止ボタンを押す
右のカセットを取り出そうとするも、開かない
ビクともしない
左のカセットは、難なく取り出すことが出来た

母が留守の隙に、ダビングをしてしまおうとしていたので
私は焦っていた
もうすぐ母が帰ってきてしまう

ハサミを使って、無理やり取り出そうとしても
全く歯が立たなかった

その内に、がチャリと鍵が開く音がして
母が買い物から帰ってきてしまった
私は慌てて、左側ににテレサ・テンのカセットを戻して
「おかえりー」と何事も無かったかのように、出迎えた

一生右側を使いませんように!と祈って過ごしていた
祈りが通じたのか、相変わらず母は毎日のように音楽をかけていたが
右側の件について、怒られる事はなく
1ヶ月以上の時が流れた

「ちょっとこっちに来なさい」
学校から帰ってすぐに、母の呼び出しを食らった時には
私自身、その事を忘れかけていた

「これ、壊れてるんやけど、知ってる?」
そう言われて、赤いラジカセを見せられた時
ああ、人生終わった……と思った
壊したことより、今まで黙っていた事をこっぴどく怒られ
まあ。誰もが1度は経験するような話なんだが。

この場合、その話には続きがあった
【つづく】