朝から塾に行っていたわたしは
授業が終わるやいなや一目散に会場をあとにしてとある場所を目指した
今月末で廃業するあのお豆腐屋さんだ
ままならぬ左足での全速力でようやく辿り着くとちょうど店主がシャッターを下ろすところだった
「おとうさん!」
大きな声で話しかけるとコチラを振り向いてくださった
「今日はもう終わりですか?」
「うん、終わっちゃった」
「そうなのですか…」
「豆乳が残ってるだけだね」
「それではその豆乳をください」
「わかったよ」
ふんふんふーんと鼻歌を歌いながらいつものビニール袋に豆乳を詰めてくださる店主の後ろ姿を眺めながらお聞きしてみた
「来週でおしまいですよね?」
「そうだね」
「必ず来週また来ますから取り置きをお願いできないでしょうか」
「いいよ、何がいい?」
「絹ごしと…」
「絹ごしは面倒だからもうやらない」
「それでしたら綿ごし2丁を」
閉店準備をしながら店主が「うん」と頷く
「おとうさん、緑のお豆腐は作りますか?」
「作るよ、最後だからね」
「では、緑の寄せ豆腐と豆乳も」
「わかったよ」
シャッターが閉まり
店主はすぐ先のよろず屋へ手押し車のようなカートを使い歩きながらわたしに言った
腰にはサポーターが巻かれていた
店主に手渡されたビニール袋を見ると
ひとつしか頼まなかった豆乳がふたつも入っている
しかも限定品の緑の豆の豆乳
「おとうさん!豆乳、1個のお代しか払ってない!」
店主は歩きながら
「オマケしておいたよ、ありがとね」
とひとことだけ
「必ず来週また来ますね!」
「うん、ありがとね」
その視線は交わることがなかった
店主は覚悟を決め【次】という前を見ていて
わたしは覚悟が決まらず【思うようにならない未来】を見ていた
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