四旬節に入った
Christmasからたった3ヶ月
再び紫色に彩られてこれから過ごす40日間は
わたしにとって長年陰鬱な時間だった
犠牲を捧げること
いまはそれを美徳だとも思わないけれど
人生と同じで
そういう時期が巡ってくるのだし
そういう時期も必要なのだ
この時期を超えれば最も喜びに満ちた復活節がやってくる
そう言い聞かせながらもっと遅い春を待ちわびる日々
でも
今年も巡ってきたそれに
これまでよりも希望を感じてしまうのは何故なのだろう
毎年見続けてきた風景なのに少し違う景色のようにも見えるけれど
この時期の慰めは
ふと遠くから香ってくる沈丁花
歩く道すがら
突然鼻先をかすめるその甘い香りに一瞬で心奪われる
あなたは一体どこにいるのですか?
駆け寄って「良い香りね」と声を掛けたくなる衝動にかられるのに
姿を探しても大抵すぐには見つからない
少し肩を落としてふたたび歩くと
「まさか」と思うような場所でその花を見つけたりする
こんなに離れた場所からあなたは匂いを放っていたのですね
わたしに気付いてもらうために
否
わたしだけではなくすべてのひとに届くようにと
雨が降りいくらかの湿った空気が纏わりつく
日常において特に視界が悪いと感じることはない
それなのになんとなく
この季節の景色はまるで薄い霧に包まれているような感じがするのだ
この世に確かに存在しているというのに
四旬節と湿度と沈丁花は仄かに霞む
それは
春の旺地を迎えるといつも浮かぶわたしだけの情景
