よく晴れた日のお昼どきに、一人でお蕎麦屋さんに入りました。店員さんに「相席でもいいですか?」と言われ、50代くらいの男性のはす向かいに座りました。男性は、頭は丸坊主で、昼間から日本酒を飲み、くねくねしています。私は軽く会釈して、あとはなるべく目を合わせないようにしていました。

しばらくして、彼と私に、もり蕎麦が運ばれてきました。私たちは一口食べると「美味しいですね!」と思わず言葉を交わしました。ほんとうにとっても美味しいお蕎麦だったのです。彼はこの近所に住んでいて、よくこのお蕎麦屋さんに来るのだと言いました。

お互いに半分くらい食べたところで、男性が「ちょっとこっちの蕎麦を食べてごらんなさいよ」と、自分のお蕎麦を私に差し出しました。「え?・・・同じでしょ?」と戸惑う私に、「いいからいいから」とあんまり勧めてくださるので、彼のざるから一口つまんでいただきました。やっぱり同じよね、と思ったけれど「うん、そっちのほうが美味しいわ」と一応言っておきました。いただきっぱなしでは申し訳ないので、「こっちのお蕎麦も召し上がってみます?」と私のお蕎麦を差し出すと、男性は私のざるから一口つまんで「うん、そっちもなかなか美味しいね」と言って、お互い笑顔になりました。

はじめは、昼間からお酒なんか飲んじゃって、ちょっと怖そうな人だなと思ったけれど、わりあいといい人でした。お店の外に並んで順番を待っている人たちがいたので、先に食べ終わった私は「お先に」と店を出ました。街路樹の緑が初夏の陽を浴びて、さっきよりも輝いているように見えました。