第2号法廷 求人募集:福祉のお仕事(薬物付き) | かっぱのテキト~お気楽裁判傍聴記

第2号法廷 求人募集:福祉のお仕事(薬物付き)

  ちょっとシャレた上下の青ジャージに身を包んだ被告人T(37歳・男性)は、こうのたまった。「年寄りだから、福祉のつもりで・・・」。
 
罪状「覚せい剤取り締まり法違反」

  深夜、実家の二階で寝ているところにガサ入れがはいり、覚せい剤が押収され、現行犯逮捕。のちに大麻の所持・使用も追訴。

  Tは高校中退後、職を転々。29歳の頃に結婚し、一人娘に恵まれる。しかし、33歳の頃、妻の通報により覚せい剤所持で逮捕。懲役1年執行猶予3年の判決を受ける。今は離婚。長く続けられる職業を探すも、なかなか上手くいかず、職が安定しない。借金150~200万円。娘とも、ここ一年はあってない。プレッシャーやストレスが激しく、覚せい剤に手を出してしまった。自分の弱さが原因だと自己分析している。窃盗歴もあり。

  証言台に立ったのは父だった。以前に覚せい剤で逮捕された際は本人に細かく事情を聞かないだけでなく、そもそも裁判に行ってない、半ば裁判すら知らなかったと答える。息子であるTの交友関係も知らず、ただただ監督不行き届きだったと訴える。感情表現に乏しいのが気にかかる。

  Tがドロップアウトし深みにはまっていく姿と、それを助長する環境が目に浮かぶようである。彼は公訴状を認めており、争点は量刑。ポイントは一つに絞られている。

「積極的に密売に荷担していたか否か」

  彼は一度目の逮捕後、一端は覚せい剤の使用を止めるも、密売人H老と繋がり、再び手を染めることとなった。後にH老は逮捕。Tは自力で覚せい剤を入手することとなる。焦点は「H老とTの関係」である。

  検察官は、覚せい剤・大麻の小分け作業、密売場所まで車での送り迎えなど、Tは積極的に密売の片棒を担いでたのではないかと訊く。そして、ここであの一言である。

「年寄りだから、福祉のつもりで・・・」

  T曰く、H老は年寄りだから車で送り迎えしてあげて、目が見えにくいというから、覚せい剤等を小分けにしてあげたというのだ。自分はそういうことに関わりたくなかったから、車で送っても車内で待ってたし、そんなことは知らなかったとも言う。つまり、Tは密売に積極的な関与はしておらず、知らないうちに手を貸すことになっていたというのが、被告人と弁護側の主張なのだ。

  ・・・H老からお駄賃として、覚せい剤等を格安にしてもらったり、時には譲り受けてたんだよね?自分が小分けしていたのは覚せい剤等なのは知ってたよね?車で送り迎えしてても、H老が何をしてたか知らなかったって、覚せい剤の小分け作業していた上に、使用歴があるのだから、それぐらい察しがつかないはずがないよね?知らないうちに手伝ってたという主張に無理があり過ぎるよね?

  今回、大量の覚せい剤等以外に、電子ばかりや大量の封筒も押収。覚せい剤等は新しい袋に入れ替えられていた。これは売人する気が満々だったよねぇ。ばら撒く気が満々だったよねぇ。しかしながら、Tは電子ばかりはかつての小分け作業で使っていたものであり、大量の封筒は家のものの整理に使うつもりで、覚せい剤を新しい袋に入れ替えたのは、確認と整理であり、そういう性分なんだそうだ・・・。どうやらTは几帳面キャラで押し通すつもりらしい。

  Tの言い訳はまだ続く。薬物を止められない理由はないけども、いつでも止められるという口ぶり。H老の逮捕後は止めてたんだけど、ちょうど逮捕される前にストレスが一気にやってきて使ってしまっただけ。逮捕される前にたまたま一回使っただけって…小学生か!一度目の逮捕時の裁判では、二度と薬物に手を出しませんと誓っていたことを訪ねられると、「やってなかったんですよ、ほとんど」。薬物使用に関する規範意識の低さを伺わせる数々の言動が気に障ったのか、裁判官が「止めるというのは、一時的中断ではなく、ずっと使わないことを言う。今までそれができてないですよね」と非常に的確明瞭な言葉で一刀両断。さすがのTも言い訳のトーンが下がった。

  検察官は、薬物の依存性・常習性は極めて高く、規範意識が薄弱、再犯率も高く思われ、社会内での自力更正は無理だとし、懲役3年を求刑した。弁護人は執行猶予を求刑。

  Tは年齢的に家族を助けないといけないし、早く仕事に就いて、うちこみたいと情状酌量を懇願していたが、罪を清算したら、今度は薬物付きの福祉業は避けていただきたいところである。