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杏菜ちゃんの情報によると、一条は来店はしていたものの、私の出勤前に帰っていた為に、出会うことがなかっただけだと知りました。
そんなにパチンコがしたいのか?それとも他に魂胆でもあるのだろうか?
それとなく杏菜ちゃんに探りを入れた時でした、「付き合っちゃいなよ!」ニヤニヤしながら杏菜ちゃんが放った言葉に一瞬固まりました。
「パンチもポンちゃんの事が気になるみたいだよ〜お金持ちだし〜良いんじゃない?」
私は慌ててパンチに何を聞かれたのか、何を話したのかを問いただし、あの人が苦手だから、私の事は何も教えないでと念を押しますが、杏菜ちゃんは真剣に取り合ってはくれません。
それもそのはずです。
何も話していないのですから。
私に彼氏がいるのか、どこに住んでいるのかを聞かれたと話す杏菜ちゃんは「家は〇〇町あたりって聞いたけど」などと話してしまっていたのです。
この〇〇町は例のコンビニ付近なので、そんなに問題では無いと胸を撫で下ろしますが、「詳しくは知らないからポンちゃんにアタックしてみなよ〜って言ったら笑ってたの〜」だそうだ。されてたまるか
とっさに、パンチって杏菜ちゃんによく話しかけてるよね?私じゃなくて、杏菜ちゃん狙いかもよ?と言ってみると「え〜どーしよ〜、でも、お金持ちだし、優しそうだし〜」まんざらでもない。
杏菜ちゃんには申し訳ないけど、こんな時の杏菜ちゃんのキャラは役に立ち、こちらから何かを聞かずとも、一条との会話を知らせてくれていました。
どうやら積極的に一条に話しかけているようで、別なスタッフからは「最近、杏菜ちゃんね、パンチに色目使ってるんだよ」なんて話も聞いていたので、困惑している一条を想像するとなんだかおかしかった。
杏菜ちゃんには、また新たな彼氏が出来ていて「また直ぐにホテルへ行ってないよね?」と尋ねると、
「彼がね〜、杏菜を〜、早く抱きしめたいから〜、ホテルまで待てないって言って〜だからね〜、車でしちゃったの〜♡」←想像の上を行くんじゃねー
私はすっかり油断していました。
コンビニでの一件以来、姿を見せなくなった一条に対し、きっと警察から注意を受けたのだろうと思っていたのです。
パチンコ店では定期的に新台入替があり、私の勤める店でも、ちょうどこの頃がその時期に当たりました。
通常より開店時間が遅く、その日は遅番も早番もなく一斉にスタートです。
店内には新台の空きを狙う客たちが、野次馬の如く通路を塞いだ状態で、新台に座ることが出来た客達は、誇らしげに座り、早くもドル箱を積んでいる客もいました。
そんな新台を打つ客の中に、コンビニ事件以来、会う事のなかった一条の姿を見つけたのです。
普段なら、たとえ一条が来ていても、その島に入らない事も出来るのですが、新台入替ともなると、そんな不自然な動きをとることは出来ません。
昔のパチンコ店では通路が狭く、ドル箱がこうも積まれると、歩くのもやっとな状態で、客同士ですれ違うことも、ままならないほど狭かったのです。
そんな新台のある島へ、ランプの対応に入った時でした。
ドル箱を倒さぬように、ドル箱とドル箱をまたいでいた私は体勢を崩し、よろけてしまったんです。
その時に、40歳くらいの常連客が私を支え、助けてくれたんですが、
その一部始終を見ていた一条は、私と、この常連客が付き合っていると思い込み、激しく怒り狂っていたんですね。これは後に知ることですが。
一条とは目が合う事もなく、通路で出くわした時でさえ、一条は私の顔を見ませんでした。
だから、安心しかけていたんです。
杏菜ちゃんから「パンチがね、ポンちゃんがあの客と付き合ってるよって言われたんだけど、違うよね〜?」
私の顔を見る事もない一条が、陰では杏菜ちゃんに、こんな事を話していると知り、あの嫌悪感が再び湧き出て来るのを感じていました。
私はこの時の一条の気持ちが今ならわかる気がします。
愛は憎しみに変わります。嫉妬が憎悪となり爆発寸前だった一条の気持ちを軽く考えていました。
そして私は、人生で最大の恐怖体験をする事になるのです。
