大学受験生に現代文を教えていると、言葉の力について否定的な見解を述べたものが数点ありました。


徳川家康が胃がんで亡くなった話は有名です。ただ、その当時は胃がんと言う言葉もなく、ましてどんな病気で死亡率がどの程度かはほとんど知られていませんでした。その意味では、家康は現代の胃がんを患ったとは言えないと主張されていました。


確かに現代「あなたはがんです」と伝えられた時、その病気のイメージが言葉にまつわりついていて、そのために患者が希望を失くすことも多い気がします。家康は何も知らなかったために、(何となく調子が悪いな)と感じるだけで、死ぬ確率について切実に悩まなかったかもしれません。無知のおかげで自然治癒力が強くなり、長く元気でいられた可能性もあります。


逆に「元気だ」や「嬉しい」「楽しい」「ありがたい」のような明るい言葉には、その言葉で励まされ、喜んだ人たちのこれまでの想いが染み付いていて、それが人を癒す力になるような気がします。


日本では昔から言霊と言って、言葉には物事を実現させるパワーが宿っていると考えられてきました。キリスト教の聖書にも「言葉は神なりき」と書かれています。


この10年でも、がん患者の平均余命は確実に伸び、持病として付き合っていける段階に近づいてきました。昔のイメージにとらわれて悩み過ぎていては生活を楽しめません。治療は先生におまかせして、生きている限り笑って過ごしたいです。