始皇帝のドラマを見ていた時、面白かったのが李斯と韓非子のライバル関係でした。

 

二人とも頭脳明晰で弁舌さわやかな天才的な思想家ですが、李斯は現実的な性格で一番強い秦に仕えて出世して行きます。逆に韓非子は理想主義者で、弱い自国韓を守り抜こうと刑死するまで努力し続けます。

 

韓非子は、韓の皇族でなかなか自分の国を捨てられない事情があったと思いますが、それだけでは語れない情熱が感じられました。当時の中国はどの国に生まれても他国に移って、自分を高く評価してくれる領主に仕えるのが当たり前の社会でした。韓非子も自分の国を裏切り他の国に移ろうと思えば不可能ではありませんでした。

 

しかも非常に頭が良く、他国でも評判が轟いていたので、始皇帝も韓非子を誘おうとしていました。優秀なだけに、引く手あまただったのですね。その上、祖国では韓非子に反対する王や重臣が多く、彼の理想を実現できる状況ではありませんでした。

 

それほどの悪条件でも、韓非子は自国の存続に命を賭けます。この時代は秦の圧倒的な力は抑えようもなく、もし秦に仕えなければ、始皇帝から処刑されるとわかっていたのにです。

 

彼の死には李斯が関わっていたとも言われます。自分よりも優秀な親友がもし同じ始皇帝に仕えれば自分の出世の邪魔になると考えたらしいです。でも、その点はどこまで本当なのかはっきりしません。

 

十代で出会い切磋琢磨した友を本気で殺したいと思ったのか、もし殺意があったとしても同時に彼の才能を惜しむ気持ちもあったでしょう。

 

ドラマでは、始皇帝が処刑を決意し、それでも韓非子の気持ちが揺らがないと知ると、李斯は牢にいる親友を訪ねて酒を酌み交わします。最後に彼に毒薬を渡すと、中身を知った上で韓非子は笑って飲み干すような形で終わりました。

 

もし毒殺しなければ釜茹でや八つ裂きの刑になったはずなので、毒で自殺するのは一番美しい死に様だったでしょう。

 

韓非子は若くして客死しましたが、名著を残し、今も読みつがれています。李斯は現実的な政治家としてトップに上り詰めますが、彼もまた最後には処刑され亡くなります。どのように生きれば悔いが残らないのか、二人のうちどちらが幸せだったのか、考えさせられます。