著者: 村上 春樹タイトル: 村上春樹全作品 1979~1989〈1〉 風の歌を聴け;1973年のピンボール

村上春樹の初期代表作「風の歌を聴け」及び「1973年のピンボール」が収録されている。この2作品を読み返すのは、何十年ぶりだろう。内容は殆ど覚えていなかったが、その感覚は忘れていなかった。2作とも「僕」と「鼠」の話。

「風の歌を聴け」
村上春樹の”本を書くことへの動機”みたいなものを感じる作品だろうか。
「あらゆることから、学び取ろうとする姿勢を持とうとする限り、年老いることはそれほど苦痛でない」
これは、まさに生きるうえでの人生論(一般論)だろう。ただ、こうした態度は、あるときには、私たちを絶望的な気分にさせていくのだろうか。だからといって、書くことに完全に絶望しているわけではない。
「文章を書くことには自己療養の手段でなく、自己療養へのささやかな試みにしか過ぎない。」
この文章を読み、なんだか救われた気分にさせてくれる。
僕は、文章を書くことを自嘲気味にこういうのである。
「夜中の3時に寝静まった台所の冷蔵庫を漁るような人間には、それだけの文章しか書くことはできない。」と。
そして、鼠と僕の18日間が始まる。おなじみの「ジェイズ・バー」でビールを飲む2人。そこで繰り広げられる鼠と僕の会話。そして”彼女”の登場。僕と”彼女”の会話は、不思議な感覚。

「1973年のピンボール」
僕が、昔愛したピンボール「3フリパーのスペースシップ」を探していく話。
いつのまにか、僕は、双子の女の子たちと暮らし始め、ピンボールとの再開を果たすことによって、彼女等と別れていく。
一方、鼠はあるきっかけで知り合った彼女と、時間の観念がわからなくなるような生活は始めるが、いつからかその生活を離れることを決意し、長年通ったジェイの店を後にする。
20代半ばにそれまでの生活を捨てようとする物語なのだろうか。僕にしろ、鼠にしろそこに流れる、「孤独さ」「相手に理解されないことへの諦め感」が、私のような読者には不思議と共感できる。