脳と心(魂)は一体不可分なのか、つまり心は脳の死ともに消えてなくなるのか、それとも心は脳とは独立に存在するのか。誰しも死は免れないものであり、この命題に関心のない人はいないだろう。この問いに関して地道にデータを収集し、科学的な考察を加えた信頼できる書籍があったので紹介したい。書のタイトルは『死の前、意識がはっきりする時間の謎にせまる』。著者はブダペストの大学教授で理論心理学者アレクサンダー・バティアーニ(Alexander Batthyany)である。

 

本書の大半は、認知症などにより脳の大半が機能不全に陥った患者の意識が、死の直前に正常な状態に戻るといういわゆる「終末期明晰」に関する事例の紹介と、その考察にあてられている。この不可思議な現象と併せて、死の直前に病室に横たわっている自身を客観的に観察していたり、美しい光景を見ていたなどといったいわゆる「臨死体験」との共通点についても考察している。

 

著者は、あくまでも事実を踏まえて客観的、科学的に究明しようとする姿勢に徹しており、好感と信頼のもてる内容である。しかし、心と脳が一体不可分なのか、それとも心は脳とは別に存在するのか?この書をもってしても明らかにはされていない。

 

私はこれまで、心と脳は一体不可分のものであり、「臨死体験」は人間に生来備わっている死の直前の単なる生理現象にすぎないと信じてきた。しかし、本書のさまざまな事例を読んでみると、それだけでは説明のできない信頼できる数多くの事例が報告されているようである。果たして、人間の意識とは何者なのか。そして、それは死んだらどうなるのか。いまだに解明されていない謎である。この世には、その他にも透視やテレパシーといった不可思議な現象も数多く報告されている。従来、科学の世界においてタブー視されてきた人間の意識に関する研究が、近年になって国際的にも活発になっていることは歓迎すべきことだと思う。

 

科学は常識を覆すことによって進歩してきた。人間だけでなく生物の意識についてもやがて解明されるときがくることは間違いないだろう。もしも、意識が物質とは独立に存在するというような事実が科学的に証明されることにでもなれば、科学の世界に一大革命を巻き起こすことになるだろう。