前に「続き書きます。」と言ってたやつです。

でもお話の時系列的には、これが一番初め。

この話→『ポッピングシャワー』『don't know』 になります(ややこしい)。


今回ちょっと趣向が違うので、ほんとうに「うんうん怒らないよ」という方だけお読みください。

そして、画像と本文とはやっぱり関係ありません。





















練習が終わった。


充実感と心地よい疲労を感じながら、受付係の方に会釈して外に出る。

見上げると、今にも泣き出しそうな曇り空。


ふと彼女を思い出して、どうしても会いたくなった。


時計を見る。

ちょうど、彼女も帰り道にいるかも。

自然とそっちに足が向かった。


髪に、肩に、勢いを増して落ちてくる雨粒が、先を急がせる。


途中まで来たところで、とうとう雨は、音を立てて激しく降りだした。


俺一人なら走って帰るんだけど。


置き傘があったのを思い出して、引き返す。

その間に、もう彼女は帰ってしまってるかもしれない。

祈るような気持ちで、水たまりも避けずにただ走った。


あの角を曲がれば、さっき出たばかりのエントランス。


曲がった瞬間、目に入った光景に、足が止まった。


雨の中、赤い傘をさして、彼女が立っていた。

手には、きれいに畳まれた黒い傘をひとつ、大事そうに握って。


辺りはすっかり、雨に煙って灰色の景色なのに、

彼女の居る所だけが、はっきりと色づいて見えた。


「勝手に来ちゃってごめんね。練習、終わる頃かなと思って。

降ってきたから心配になって」


嬉しくて叫び出しそうな。

それでいて、なぜか泣きたいような気持ちになって、

つい、心にもないことを言ってしまった。


「置き傘あるから、別にいいのに」


「ほんとだ。そうだよね」

彼女は気にもせず、おかしそうに笑っている。

「でも、せっかくだから。はい、これ」

手に持っている傘を俺に差し出す。


黙ってその手を押し返して、彼女がさしている赤い傘を代わりに受け取った。


「これ一つでいい。帰ろう」


さっき一人で歩いた道を辿る。

一つの傘に、二人で入りながら。


彼女の髪の香り。くすくす笑う声。


ひとり占め、できないかな。

このまま。雨が止んでも。


濡れたスニーカーのつま先を見ながら

そんな事ばかり考えていた。


知ってる?


「えっ、何?」

彼女が不思議そうに俺をのぞきこむ。


「あ、何でもない。肩が濡れてる」

そう言って、右手に傘を持ち替えて

左手で彼女を抱き寄せた。


絶対、知らないよな。


俺がもうどうしようもなく、君を好きだってこと。







(画像お借りしました)

最後までお読みいただきありがとうございました。

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『猫になる』はこれで上書き、と。