一般的に示談書には、その内容を第三者に口外することを禁止するいわゆる「口外禁止条項」が盛り込まれることが多い。
今回の示談書にも「口外禁止条項」が盛り込まれていることから、第三者委員会の調査でも示談書の内容は明らかにならなかった。
ただし、このような事件の場合、示談書の内容としては、加害者が事実関係を認めて一定の解決金を支払う代わりに、被害者はそれ以上の損害賠償請求を放棄することに加えて、刑事処罰を求めない「宥恕文言」を入れた条項を設けている場合が多い。
結論からいえば、この場合であっても、被害者は刑事告訴することができる。
示談書は、被害者と加害者との二当事者間における民事上の効力が認められるにすぎない。
これに対して、刑事告訴権は、刑事訴訟法上、被害者に認められた権利であって、その法律関係は国家と被害者との間にある公法上のものだ。
刑事訴訟法上、告訴の取消しに関する規定があるにもかかわらず、告訴権の放棄について定めがないことからすれば、告訴権の放棄は認められないとされている(最高裁昭和37年6月26日決定、名古屋高裁昭和28年10月7日判決)。
したがって、示談書に宥恕文言が盛り込まれていた場合であっても、そもそも告訴権を放棄することは認められないことから、被害者渡辺渚は刑事告訴をすることが可能だ。
もちろん、中居正広側から「示談書の宥恕文言に違反する」と主張されるリスクはあるが、それはあくまでも渡辺渚と中居正広の民事上の問題であり、それゆえに刑事告訴できなくなるわけではないのだ。
以上より、渡辺渚は今からでも刑事告訴することができるということになる(刑事訴訟法230条)。
加害者中居正広に対する処罰感情が強い渡辺渚は、制度上、中居正広を刑事告訴できるが、するかどうかは、渡辺渚自身が決めることになる。