要  約

 この論文はすべての人間にとって共通の問題であり、最も重要な問題である「人生いかに生くべきか」ということを扱ったものであり、その答えとして、自己を実現し、幸福と感じられる人生を生きることだとしています。そして、どうすれば自己を実現できるか、どうして自己を実現できない人がいるのか、ということが主要なテーマとなっているのです。

 第一章において、プラトン、フロム、アリストテレス、ミルのことばを引用して、人間の生きる意味を考え、それは自己を実現し、幸福と感じられる人生を生きることだと結論しました。

 第二章において、人間と他の動物たちとの相違を考え、それは人間が道具をつくることにより環境をかえて生きることができるということと、ことばを獲得できることによって、具体性を越えた思考の世界に生きることができるということになりました。

 第三章において、人間存在の本質を考え、それはたえず自己自身の存在可能性を実現していくものであるという生産的存在と、たえずかかわりの中に存在しているという関係的存在の統一という意味をもったものであるとなりました。

 また人間は、「事物世界」、「共同世界」、「自己世界」という三つのアスペクトをもった実存の世界に生きていて、その実存の世界は、人間のとる二つの根源的な態度にもとづいて、生産的世界と非生産的世界との二重となり、人間は絶えずどちらかの世界に生きているということになりました。