ⅱ実存的二分性
人間は青年期において、今度は個性的存在として、みずからに方向を与え、安定を見つけ出さねばならないのです。自意識が明確になってきて、青年期において自我にめざめた時に、人間は独立して生きようとするのです。しかしながら、人間は実存的二分性のもとにある。フロムによれば実存的二分性とは、人間の存在に根ざした人間の本性における分裂をいうのです。第二章で示した人間の特性である思考は、自覚や想像を生み、人間のうちに二分性を生みだしたのです。
もっとも基本的な実存の二分性は、生と死の二分性です。人間は死なねばならぬということは、すべての人間にとって変りがない。死は生の正反対のものであり、生きるという経験とは関係のない、それとは両立しないことなのです。人間はこの事実を知っていて、そして正にそれを知っているということが、人生に深い影響を与えるのです。しかし、自分がいつか死ぬという事実、刻々と存在しなくなりつつある自分の存在を受容することに、人間は恐れを感じ、不安を抱くのです。