私は、ここで、自己自身の存在可能性を企て投げていくという未来性の面について、さらに述べてゆきたいと思います。このハイデッガーのいう未来性は、フロムのいう生産性、波多野・稲垣の『知的好奇心』における向上心と同じものであると考えてよいと思います。
フロムによれば生産性とは、自己の力を用い、自分に備わった可能性を実現するという人間の能力であり、また『知的好奇心』において向上心とは、下界との交渉における自分の有能さを追及する傾向であり、自分の能力を精いっぱい発揮し、それらをさらにのばしていこうとする内在的な傾向のことです。
『知的好奇心』に従って、この傾向を述べて行きたいと思います。
ヘッブの感覚遮断の実験、バトラーのリーザスサルによる実験、スピッツやホワイトやスモールズとダイのホスピタリズム関する実験、これらの実験により、人間は退屈を嫌い、知的好奇心を満たすべく常に情報を求めている存在であり、その情報は既存の枠組を多少修正するもの、既存の知識に「挑戦」するもの、いいかえればそれと適度のずれを持つもの、こいうものはかえって非常に好まれる、ということがわかったのです。