ここで人間と他の動物たちとの相違をまとめてみます。
人間の学習能力も他の動物たちの系統発達的に見た学習能力と、本質的に異なるものではなく量的・質的に連続するものと考えることができます。しかし、その程度の差は、動物間の差と、動物と人間との差とを比較すると、全く次元の異なる差なのです。そしてその差は、ことばの学習によるということができます。人間は一度ことばを獲得すると、それ以後の学習はすべてことばに置きかえられるようになり、その後は具体性を越えた思考・想像の世界で無限の可能性をもつことになるのです。また、人間は道具をつくることなどにより、環境をかえて生きることができるのです。
最後に、パスカルのことばを引用してこの章を締めくくりたいと思います。
思考が人間の偉大さをつくる。
人間は一本の葦にすぎない、自然の中でもいちばん弱いものだ。だが、それは考える葦である。これを 押しつぶすには、全宇宙はなにも武装する必要はない。一吹きの蒸気、一滴の水でも、これを殺すに十分である。しかし、宇宙が人間を押しつぶしても、人間はなお、殺すものより尊いであろう。人間は、自分が死ぬこと、宇宙が自分よりもまさっていることを知っているからである。宇宙はそんなことを何も知らない。
だから、わたしたちの尊厳のすべては、考えることのうちにある。まさにここから、わたしたちは立ち上がらなければならない。・・・だから、正しく考えるようにつとめようではないか。
パスカル著 『パンセ』 角川文庫 p209