冬夜の小樽 | 鉄道 飛行機 自転車 そして街めぐり

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列車に乗って。自転車に乗って。歩いたり。空を見上げて飛行機を追っかけたり。

函館本線に乗り、石狩湾を見るのを楽しみにしていた。


しかし、冬の北国は夜の訪れが早かった。


小樽へ。


列車は漆黒の石狩湾沿いを走り小樽に着いた。小樽駅のホームは一面雪で覆われている。滑らぬよう雪のホームに降り立つ。照明の無いホームの端がほんのり明るく見える。あれは雪明かりだろうか。


駅舎を出てみる。小樽は港湾都市として発展してきた街である。札幌のような煌びやかなネオンサインはないが、街路灯のオレンジの光が、暖かく旅人を迎えてくれている。

港街ならではの古い洋館作りの建物が、オレンジ色の街路灯に照らされ趣がよい。


幸いにも雪が降っていない。凹凸の無い靴底の靴を履いてきたものにとっての気休めとなろう。


早速、今宵の宿へ向かう。駅から宿がある港の近くまでは、緩やかな下り坂が続く。


車道は除雪されているのか、黒いコンクリートが見える。しかし旅人が進む歩道はかなりの積雪である。凹凸なき靴底には酷な状況であることは言うまでもない。


いや待てよ。この歩道だけ除雪されていないのは、雪を愉しむ旅人向けの演出なのか?とそんなことを思ってしまう。


その時である。後ろで悲鳴が聞こえた。どうやら凹凸無き靴底の旅人が、転倒したようだ。振り向くと、それは旅の同行者であった。ここではそのことはあまり触れないでおこう。


坂を下り切ると東西に走る広い通りがある。その向こう側は運河である。俗に言う小樽運河である。

運河の手前側は人が通れるよう、遊歩道が整備されている。運河の反対側は倉庫である。オレンジ色建物は煉瓦造りなのであろうか。


臀部痛の同行者を宿に送り届け、凹凸の無き靴底にて運河を歩いて見ることにした。


まずは遊歩道側である。しかも少し下っている。この積雪では先に進めるであろうか。

人が普通に歩きながら上がってくる。彼等の靴底の凹凸はどうなっているのか気になる。人が通れるならば大丈夫と歩みを進めてみる。凹凸無き靴底でも大丈夫そうである。


運河の遊覧船も営業を既に終わり、行き交う人もまばら。運河の水は流れることなくその場に留まっている。ただ時間だけが静かに流れているようだ。

私は写真を仕事にしているわけではない。しかしこのような暗闇でも、職業人が写したような写真が撮れるてしまう。スマートフォンの性能には驚かされるばかりである。

歩いた道を振り返ってみた。こんな雪の路面を、凹凸無き靴底で歩いている、自分のバランス感覚の良さに感動してしまう。しかし、乾いた雪は滑りにくいと言う事実はこの時は気づいていない。

運河を渡り倉庫の表側にきてみた。ここにも人がいない。先程より雪の歩道が滑る。凹凸の無き靴底をスキー板に見立てて滑らせてみた。よちよち歩くよりかなりの速度で進む。これはいい。昔培ったスキーの技術がこんな所で役立つとは。と一人悦に入って不思議な格好で歩く旅人の姿がそこにあった。


周りに人が居ないと言うことは、羞恥心を忘れさせてくれるものである。


ここはアメリカ映画に出てきそうな風景だ。冬のアメリカには行ったことがないが、アメリカの冬はこんな感じなんであろうか。

倉庫は今は飲食店になっている。またこの面持ちも良いものである。遠くに人の姿を確認する。再びよちよち歩きになる旅人であった。

運河を渡り元の位置に帰ってきた。ここからは今宵の宿が見える。臀部を痛めた同行者の様子が気になってきた。

さてと、宿へもどるとするか。


おわり