■イタリアの意地と哲学
ピルロ、ガットゥーゾが出場停止の上、カンナバーロ、マテラッティも居ないイタリア。
それでも守備の哲学はまったく変わらなかった。

変わったのは攻撃へのアプローチ。
SBの攻め上がりは殆どなく、1TOPのトニとカッサーノ辺りの技術に頼る戦術。
ピルロが居ないとは言え、10番デロッシを出していながら中盤で繋ぐ、という方法を放棄した。

きっとそれは守備のために。

そこまでの覚悟が出来るチームは強い。

きっと世界中が攻撃的なロシアを賞賛し、敗れたオランダを褒め称えても、彼らは動じずに守備を遂行するだろう。
そもそもイタリアを守備的だ、つまらない、と両断したとして、あのスペインを相手に120分に渡り完璧に守備をし続けれるだろうか?
イタリアを笑うものは、同じだけの守備を続けれる自信があるか、自分に問いてみるといい。

カテナチオとは、単に守備の陣形や堅さだけを言うのではないのだろう。
きっとその言葉は、イタリアが長年守り続けてきた哲学そのものである。
だからこそ鎖よりも硬く、どんな鍵を持ってしても開かない錠前なのだろう。


■スペインの意地と哲学
スペインはボックス型の4-4-2。
世界の主流である、プレーメーカをウィングに置く形ではなく、あくまでも中盤を重視した布陣。
セナが守る前で、イニエスタ、シャビ、シルバら攻守に長けた選手が目まぐるしくポジションを変える。
だが、どれだけパスを回しても、それはイタリアの守備陣の「目の前」だった。

サイドに人数を掛けない攻撃では、SBが上がる以外にサイド突破は出来ない。
だがイタリアのカウンターを恐れてSBの攻め上がりは少なく、オーバーラップは期待できない。
結局ボールは虚しくイタリアDFの眼前を横に動くだけだった。

それでもスペインは中盤にこだわった。

どれだけ狙われてもFWがポストに入り、中盤に返して前を向く・・・
いつか、裏のスペースが空くことを信じて繰り返し続けた。
時には苦しい体制でもミドルシュートを試みるものの、おそらく最後には綺麗なワンツーから崩すことを夢見て。

最後まで空かなかったそのスペースの攻略はオランダが教えてくれていた。
ピッチをワイドに使い、頑強なDFを右に左におびき寄せてから中央を使うのだ。
あのスナイデルのゴールのように・・・

だがスペインはそれをしなかった(出来なかった?)
そして最後までイタリアの守備を崩せなかった。
シルバ、セスク、シャビ、イニエスタ、カルソラ、、、
純粋なサイドアタッカーを置かない2TOPの限界だったとも言える。

だが、スペインは中央にこだわった。
それを美徳と呼ぶのかも知れないが、愚直なまでに拘っていたように見える。

しばらく忘れていたが、これは「国別対抗戦」だったのだ。
誰もが自国の維持と誇りを掛けて戦っている。

だからこそイタリアは守り、スペインは中央から攻めた。
クラブチームで洗練された戦術を学び、近代サッカーの全てを知り尽くしてるはずの選手達が、
自国の誇りである信念を貫き通した試合。


オランダーロシアに比べればスペクタクルには乏しい試合だったかもしれない。
だが、勝者も敗者も生まれなかったこの試合にこそ、最近忘れていた国の代表戦という意地を見た気がする。


■準決勝展望

・ロシア-スペイン
サッカーの質としてはロシアが上だろう。
だが、心身ともに疲労しきっているであろうチームが対抗するだけの力が残っているか?
そこがポイントになりそうだ。
また、スペインもイタリア戦を忘れてカウンターに勝機を見出したり、
サイドをワイドに使う攻撃を使えれば決定力の差でスペインが有利だろう。

自国の信念を貫き敗北してきたスペインが、ひさしぶりの戴冠を目の前にした時、果たしてどういう手段に出るのか?
興味は尽きない。
どちらにせよ、今大会もっともスペクタクルな試合になるかもしれない。

それでもスペインの勝ち抜けを予想(期待)したい。
自分も夢見がちな人間の一人なんだ。


・トルコ-ドイツ
トルコの奇跡はここで潰えるだろう。
「調子の悪いドイツには気をつけろ」
ゲルマン魂は大会からCロナウドとデコを見る楽しみを奪った。
次はきっとトルコ人の夢を奪うだろう。
これからドイツの事をバクとでも呼びたいな。

勝負を決して諦めないドイツと、そのドイツのお株を奪うような逆転劇を披露してるトルコ。
どちらの執念が上か?
今大会でもっとも泥臭く、フィジカルな勝負が見られるだろう。

そしてそうなったときのドイツの強さを知らないわけではない。