日本 VS ヨルダン (1-2)

■前提
勝点13で二位以下を大きく引き離して首位の日本。
この試合に勝利か引き分けでW杯が決まる。
相手はホームで6-0と圧勝したヨルダン。
ヨルダンも現在最下位とは言え勝てば一気に2位の可能性もあり、
オーストラリアに勝ったホームということで気勢をあげていた。
ヨルダンのメンバーもベストがそろい、
アウェーの中、日本は本田、長友をけがで欠く布陣。

■先発
川嶋
内田 今野 吉田 酒井(高)
遠藤 長谷部
清武 香川 岡崎
前田

■前半 そしてピッチ状態
前半はお互いにややオープンに攻めあう展開。
ピッチ状態の悪さから綺麗に繋がらない場面が目立つ。
それでも日本は左サイドを清武、酒井、遠藤、さらに香川も絡みながら
何度か敵陣深くまで突破するシーンを作った。

この日のヨルダンは守備の集中力が抜群で、
何度抜かれてもパスを通されても最後のところで体を張って止めていた。

ただ、ヨルダンの攻めも単調で、おもにロングボールか
個人のドリブル突破しか選択がなかった。
相手ボールになっても簡単に奪い返せる状態が続いていたが、
日本はどうも前に攻め急ぐ印象が強い。

せっかく奪ったボールをすぐに奪い返される、
そしてまたすぐ奪い返すという忙しい展開が続く。

清武の突破から香川につないだシーンを作ったあと、
清武のクロスに前田が飛び込みあと少しでゴールまで迫る。

さらに、右から長谷部のクロスに完璧にフリーで
飛び込んだ前田のヘディングはポストを叩く。

惜しいシーンは多いものの、全体的にシュートの意識が低く、
また、ピッチが悪いため後ろに下げないという約束事があったようだが、
(自陣近くでミスすると即失点に繋がるため)
それにしても前に急ぎすぎて自分たちの時間、リズムを
みすみす逃してる印象であった。

そんな中前半終了間際、CKから飛び込まれ失点。
0-1で前半を終える。


■後半 選手交代と執念
後半、日本は攻めるしかない。
とは言え、1点取れば引き分けでW杯出場は決まる。
そんなに難しい状態ではないのだが、選手の悲壮感が半端ない。
やはりW杯予選の重圧は凄まじい。

あの遠藤や清武さえも視野が狭くなり、ゲームを作れない。
さらに、酒井がサイドで奪われ、一気に突破される。
止めに入った吉田も走力のなさを露呈し、GKと交錯しながら
一人で試合を決める2点目を奪われてしまった。

0-2となったことで、ザックはハーフナーを投入。
前線で起点となることを想定したのだろうが、
足元がそれほどうまくないため、弾むピッチでうまくキープできない。

それでもハーフナーが入ったことで、高さという武器ができ、
前半よりも簡単に前線に預けるシーンが増えた。
これが非常に大事で、横に横につないでるだけでは怖くない。
また、狭いところを中央突破を狙うのは通れば美しい攻撃だが
サッカーは美しさを競う競技ではない。

後半、どんな形でもゴールを目指していたのは
岡崎だけだったように感じる。

きれいにつなぐ攻撃は目指すべき高みだが、
もっと簡単にゴールにもっとも近い場所にボールを持っていく、
ということも大事ではないか。

日本の選手はゴールする、シュートするというのが目的ではなく
相手守備陣を崩す、裏を取る、フリーになる、
それが目的になってしまっているようだった。

清武の浮かしたパスがハーフナーの頭を超えて香川に。
香川が冷静に決めて1-2。

さらには内田の突破からPKを獲得。
しかし、このPKを遠藤がはずしてしまう。

この時点で残り時間は20分弱。
決して届かない1点ではないはず。
だが日本の選手の意気消沈ぶりが酷い。

予選の重圧とアウェーの重さ、
ピッチが悪いゆえの苛立ち
30度を超す気温による消耗

エクスキューズはあるものの、
日本の選手はあまりにも勝負弱かったと言わざるを得ない。

最後まで攻めの姿勢は見せたものの、
崩しきることはできず 1-2で敗北。
W杯出場は次戦に持ち越されることとなった。

この試合の敗北ですべてを失ったわけではない。
それでも日本が圧倒的優位な状況であり、
過去にないほどに楽に突破できる「結果」は残しているのだ。

この試合は反省すべき内容だが、この結果で日本代表の
これまでの成果を否定すべきではない。

今こそ内田のように、過剰反応する周囲に動じない精神が必要だろう。
残り試合でしっかりとW杯出場を決めれば良いのだ。


■W杯最終予選とは
本田、長友、香川を擁する日本は戦力的には現在アジアで突出している。
ホームで快勝を続け、W杯予選とは言え日本もここまで強くなったか、
と感じていたが、やはり予選は甘くなかった。

選手自身もこれが「W杯に行きたい国同士の喧嘩」であることを
どこか忘れていたのではないだろうか?

W杯に行きたい執念、この試合にかける思いは
確実にヨルダンのほうが上回っていたように思える。

日本がW杯に行けなかった時代。
世界の壁はどこまでも高いと感じていた。
今その世界にかすかに手が触れる距離まで来ている。

しかし、少しでも気を緩めば
まだまだ足元をすくわれる。

「本田、長友がいないと勝てないようではダメだ」
それは正論だろう。遠藤、香川もしかり。

しかし、気を抜きながら、メンバーを入れ替えながら
余裕をもって突破できるほどの実力はまだ無い。

ベストメンバーであれば世界に挑戦できるところまでは来た。
今はまだその段階。

ベストなら、という注釈つきでも、
それでも一昔前から考えたらすごい状況である。

ベストメンバーの12,3人のうち、誰かが欠けたら
日本はまだ実力を発揮しきれないレベルなのだ。

そしてその状態で軽く突破できるほどW杯予選は甘くない。
相手もW杯に「行きたい」という思いで戦ってるのだから。

どこか、日本の選手に普通に試合をすれば勝てる、
普通に突破できるという感覚があったのならば
あのW杯に行けなかった時代を知ってる人間の
あの時代日本が持っていた「W杯に行きたい」という気持ちを
思い出すべきではないだろうか?

何がなんでも勝つ、

勝負というのはその思いを時に裏切るが、
その思いがないチームが勝つことは無い。

確かにこの試合で決めれば6月は控えを試せる。
そしてそのまま消耗せずにコンフェデ杯に臨める。
利点は多かった。

しかしまだ、目の前の試合を全力でやらずに
軽く突破できるだけの立ち位置ではない。
それを思い出せたことが一番の収穫かもしれない。

これは「W杯予選」なのだから。


■選手評
川嶋 5.5 失点のシーンは仕方ない。ファインセーブも見せた。
今野 5.5 悪くない。冷静なカバーも見せたが2失点の責任は少なからず。
吉田 4.5 久しぶりに悪いまやが出た。2点目はイエロー覚悟で止めても文句はない。戦う執念、走力のなさを露呈。
内田 5.5 左からの攻撃が多かったため攻撃は自重気味。それでもPK奪取は十分。簡単なクリアやパスを雑にする傾向があり、攻撃の停滞を生んだ。
酒井 5.0 積極性は変わらずだが、気負いがあったか、ポジショニングが悪く判断も悪かった。

遠藤 4.0 ここ数年で最悪な遠藤を見た。判断も悪く視野も狭い。後方からゲームを作る役割を果たせずPKも失敗。
長谷部 5.5 失点後も味方を鼓舞し、前への意識は強かった。決定的なクロス、GK正面へのシュートも。どれかがゴールに繋がれば…
清武 4.5 シュートの意識が低く、繋ぎすぎるため怖い選手ではなかった。
香川へのアシストになったが、攻守に戦えない印象を残した。
岡崎 5.5 最後まで闘っていた。無理にでもシュートに向かう姿勢、相手への恐怖を与えたのは彼だけだった。しかし精度は伴わず。
香川 6.0 1得点は及第点。中盤で技術を駆使しボールを繋いだ。相当な重圧がある中で結果を出したのはさすが。周囲との連携と強引な突破、シュートを見せてもよかった。

前田 4.0 評価が難しい。良いポジション、良い動きは見せたが肝心の決定機に外し過ぎた。

ハーフナー 4.5 足元での起点になりきれず。周囲の意識をひきつけたのは評価。
駒野 5.5 厳しい状態の中、やるべきことを分かっているプレー。
乾 ― 短い時間では何も残せなかった。