​【第三話】買い物客


現在、私はウィッカという活動をしていながら、普段は普通に地元のスーパーでパートをしている何の変哲もない女です。服も真っ黒いゴシック調の服が好きというわけでもなく、いつもその辺をTシャツとジーパンというシンプルなルックスで散歩するような、ごく普通の一般人です。

特に私は霊感が強いというわけでもなく、そういったものをがっつりと見てしまうということはほとんどありません。子供の時にいくつか不思議な体験をしたことはあったものの、大人になるにつれ徐々にそういうものとは無縁になっていったのです。

この話は、私が大学生になった直後、ちょうど19歳の時に始めたとあるスーパーのバイトでの話。

大学生になってアルバイトをしなければならないことになり、徒歩3分という驚異的な場所にあるとあるスーパーのレジ係として面接を受けに行きました。

初めての面接で緊張しましたが、何とか合格しその数日後から研修が始まりました。

入って数日間は慣れない機械と悪戦苦闘し、時には清算をミスしてお客さんに咎められたり、上司からも叱られたりしていました。初めてのバイトだったこともあり、慣れるまで相当時間がかかるかもしれない思っていました。

ですが、周りのパートさんはみんな優しくて、特に私と同時期に入ってきた中年の女性のパートSさんとは無駄話をするほど仲良くなり、比較的楽しい時間を過ごしていました。

ある日、私はバイト帰りに買い物をしなくてはならなくなり、目当てのものを買ってレジに行きました。担当してくれたのは、先輩のTさん(女性)でした。

会計が終わるや否や、Tさんからこんなことを言われたのです。

『あなた、良くここに来たわね』

それは、決して新入りの私をいびろうとしているような雰囲気ではなく、本当に神妙な目つきで心配するような口調で言ってくるのです。

「どうしたんですか?」と聞き返すと、彼女の口から驚くような言葉が返ってきました。

『ここ、短期間で10人以上辞めてるのよ』

彼女曰く、ここに入ってくる新人は、皆チーフの陰湿なイジメでみんな辞めていっているという話でした。

少し思い当たる節がありました。

私は、当時まだ入って1年もしていないど素人でした。私がミスをする度に、チーフの態度や口調が少しずつ変わってきているような気がしたのです。

まぁ、ミスをしているのだからしょうがない、慣れるまで我慢するしかないと思いましたが、その指摘の仕方が単なる注意というよりも、すごくひとつのミスに対して粘着してくるようなタイプであることに気づきました。

さらに別の日には、私が担当しているレジの後ろのレジで、別のパートの人と一緒に私の悪口を言っているのが聞こえました。今ではもう何を言われたかほとんど覚えていませんが、「ああいう子はここまでしないとダメなのよ」みたいな内容の会話が聞こえてきました。一方でパートさんは、ただ彼女が言うことを適当にあしらっているように聞こえました。

日に日にそれがエスカレートして、些細な動作や言動まで指摘してくるようになりました。しばらくして身体的、精神的疲労が溜まって、昔からあまり体が良くなかった私は体調不良を起こすようになったのです。

治っては不調になるの連続でしたが、同期のSさんがすごく気遣ってくれて、心細い思いをしていた私はなんとかしばらく辞めずに続けることができました。

私が不思議な体験をするようになったのは、そんなことがあってしばらく経った時のことでした。

いつものように私は担当のレジでお客さんの会計をしていました。

お釣りを渡す際、お客さんに対して真正面に向いて渡します。その時に視界の右端に次のお客さんが並んでいるのが見えたのですが、ふとその場所を振り返ると誰もいない……そういうことが何度か起こるようになりました。

立っている人の気配や影は分かるのですが、視界の端はぼやけているので、その人の顔立ちや服の特徴など詳しい情報は分かりません。ただ、そこに人が立っているという感覚だけはあったのです。

隣のレジに移ったわけでもなく、辺りを見ても自分のレジから離れていく人はいない。文字通り《消えた》のです。

5年間そのスーパーで働いていましたが、合計で3、4回くらいそんな出来事があったかと思います。1年に1回あるかないか。視界の端には確かにいるような感覚があるのに、振り向いたらいない。買い物かごを置くような素振りも、近づくような素振りもない。ただそこに突っ立っているように見えました。

チーフと上手くいかなかったり、人間関係のこともあって精神的肉体的に疲れているのだろうと思っていました。

バイトを始めた1年後に、そのチーフは異動という形でこの店舗からはいなくなりましたが、それでもこの現象はなくなりませんでした。

それだけではなく、Sさんからも奇妙な話を聞くようになりました。

『最近、女子トイレの蛇口が勝手に出るんだよね』

従業員用のトイレはかなり綺麗に手入れされており、手洗い場は手をかざすとセンサーで水が出るようになっていました。センサーが故障したのかも。そう思い特に問題は感じていませんでした。ですが、後日身震いするような思いをしたのです。

私の店舗ではシフトの間に10分休憩が挟まり、その間に休憩室のテレビを見ながらくつろいでいました。いきなり天井の蛍光灯がピカピカッと点滅したかと思うと、テレビの画面が一瞬ザザーッと乱れる。そういった現象が何度か起こりました。また、更衣室も人感センサーでライトが自動的につくようになっているのですが、人がいなくなっても長い時間ついたままになっていることがありました。

センサーは、普通は熱や赤外線が感知されなくなるとすぐに消えるように設計されています。なので、人がいなくなっても長い間つきっぱなしになっていたり、勝手に作動して水が出てくるなんて、センサーが壊れている以外あり得ない話です。

その時は休憩室に1人でいたこともあり、些細な現象がより怖くなってしまい、その日に遅番していた副店長に相談しに行きました。そしたら突拍子もない答えが返ってきました。

「ただの風で電波が乱れてるだけでしょ」

その日はこれといって風が強かったわけでもなく、今のご時世、些細な風力で電気系統がおかしくなることなんて普通はありません。もしあったら、お店の建物の設計自体が最悪ということです。

Sさんに休憩室の話をしたら、「そんなこと起きたことない」と言うので結局分からず仕舞いでした。

現在、そのお店はもう辞めてしまい別のスーパで働いていますが、あの人影の正体、そして休憩室の現象が今でも何だったのか分かりません。 

科学的に解明できるものなのか、それとも、そういった『霊』のような存在がいるのか……
近くに霊がいると電気系統に害を及ぼすと言う話を聞いたことがあります。

あなたはどう思いますか? この現象……