作家の柳美里(ゆうみり)さん。

柳さんには何となく親しみを感じます。

まず誕生日が近いし、昔、顔が似ていると言われたことがあります。

何より柳さんは波乱に満ちた家庭に育ち、学校では陰湿ないじめを経験していて、

私も柳さんほど悲惨ではないけれど、家庭や学校でつらい思いをしたから。


柳さんの両親は在日韓国人で、その生い立ちや日本に来た経緯には不明な点が多いそうです。


柳さんいわく、

「両親の過去には暗いトンネルがあって、二人はその入り口と出口を沈黙という壁でぬり込めからでなければ、日本で生きていくことは出来なかったのだ」

とのこと。


柳さんの父親はパチンコの釘師で高給だったが、そのほとんどをギャンブルにつぎこみ、

母親は生活費を稼ぐためにキャバレーのホステスになり、偶然お店に来た元同級生と恋仲になり、柳さんが小学6年の頃、その男性と駆け落ちして家を出ます。


また、柳さんは幼稚園、小学校、中学校と、集団の中で、ずっといじめ続けられるのですが。。

「私はいじめられ続けた。色々な要素がからみあっていたのだろうが、集団への苦手意識が人一倍強かったせいのように思う。今でも一対一では話せても、三、四人が同じテーブルにつくと会話できない。私の無意識の集団への嫌悪感は幼稚園児にさえ勘づかれていたのだ」

「小学校に入学し、一週間もたたないうちに同級生は仲良しグループにわかれ、私はそのいずれにも入れてもらえなかった。誰も話しかけてこなかったし、自分から声をかける努力もしなかった。私は完全に声を出すタイミングを逸してしまったのだ」

「私がいじめにあったのは理不尽なことではなく、何か原因があったのだ。ものごころついた頃から、私と他者の間には深い溝があって、決して向こう側には行けないと感じていたのである」

「このような出来事を生み出したのは、自分の内で芽生えつつあった暗くはげしい情念だったのだろう」

と分析しています。


小学校でのいじめから逃れるために入った私立の女子中学校でも柳さんはいじめられ続け。。

「私はどこにも所属することができなかった。勉強ばかりではなく、彼女たちの話題にもついていくことができなかった。集団になじめない単独行動型、過剰な自己防御、他者を極度に怖れるという本性があらわになり、私は浜辺に取り残された魚のようにあっぷあっぷしはじめた」

「女子校では休み時間も登下校も一人という人はまずいない。学校で一人でいること自体が拷問に近いのだ。もの音というもの音がだんだん耳ざわりになり、誰かのため息や咳払いひとつで脂汗をかくようになった。みな私をばかにしている。夜眠ることができなくなった」

精神のバランスを崩した柳さんは、中学三年の頃、自殺未遂を図ります。。


いじめを経験すると、自分に対する冷たい視線や疎外されるみじめさが染み付いてしまい、

集団の中にいると、自分だけ異質な気がして息苦しくなります。

私も柳さんと同じく、集団になじめないアウトサイダーなので、柳さんの感覚はよく分かります。


柳さんは中学校を中退した後「東京キッドブラザーズ」の主宰者の東由多加(ひがしゆたか)さんと出会い、

東さんから、

「あなたの家族のことも、これまでの出来事も、人には知られたくないマイナスのことだったでしょうが、演劇をやっていくのなら全てがプラスにひっくり返るでしょう。それはあなたの才能であり、誇りにした方がいい」

「あなたは文章が書けます。これからはできるだけ本を読むように」

と言われ、救いを見いだすのです。